ダボス会議前に姿を消した大連名物、夜の屋台。いまだ復活せず

大連最大の屋台密集地だった撤去前の西安路(TMさん撮影)

 7月上旬、中国大連の夜の風物詩にもなっていた屋台が突然姿を消した。3か月近くたった今でも通りを埋め尽くすように屋台が並んでいた場所はガラリとして店舗から漏れる明かりと街灯だけで薄暗く感じる。  古くから大連の夜の名物として定着していた屋台は、ファストフード的な料理を中心に雑貨、洋服など何でも売られていた。イメージとしては、日本の夏祭りの明るくライトアップされた屋台が365日年中出されているような感じだ。  この屋台、名物ではあるものの問題も多く、通行用の歩道をふさいでしまうため通行人は車道を歩くことを余儀なくされたり、飲食店だと廃油、汚水などの異臭が漂ったりと安全も衛生面も問題だらけだった。そのため、日本人では食べると体調を崩す人も少なくなく、利用者はほぼ皆無だったが、それでも現地の人にとっては、安いこともあって利用する人も多く、特に夏は客で賑わってきた。

あっという間に姿を消した大連の違法屋台

 ところが、その終わりは突然訪れた。大連市政府(市役所)関係者の話によると6月末、副市長が視察の帰りに屋台エリアに立ち寄り、「大連に夜の経済は必要ない」と取り締まり強化を指示したという。それから1週間も経たないうちに屋台は一夜で一斉に姿を消した。大連市の中心部だけではなく、郊外の屋台も同時に姿を消したという徹底ぶりだ。 ⇒【画像】はコチラ https://hbol.jp/?attachment_id=62188  屋台があった場所には、”道路を占拠する屋台の撤去は、市民の生活環境を守るため”と垂れ幕をかけてアピールしている。併せて、中華人民共和国道路交通管理法、治安管理処罰法、食品安全法、遼寧省愛国衛生条例、大連市都市市容管理条例、都市環境衛生管理条例、環境保護条例などに基づく対応だと市民へは伝えられている。 ⇒【画像】はコチラ https://hbol.jp/?attachment_id=62190  大連市民の間では、9月9日から11日まで大連で行われていた夏のダボス会議が終わるまでだろうと噂されていたが、現時点でも屋台が復活する兆しはない。  もっとも、撤去されたのは届け出を出さず営業許可もなければ納税もしていない違法営業の屋台で、大連に複数存在する正式に営業が認められた屋台エリアは現在も営業している。正規に許可を得ている経営者から見ると不満に感じるのも無理からぬ話で、彼らからすれば違法屋台が消えたことも歓迎すべきことなのかというと必ずしもそうではないようだ。  大連でパスタやビザなどの洋食店を営む日本人経営者は、「7月まで店の前に魚肉団子の違法営業の屋台がありました。彼らは、僕らに盛んにコミュニケーションを取ってきて、そのうち親しくなり、彼らの屋台で買ったものを店内に持ち込むことを認めました。その代わりうちの店でビールなどアルコールを飲んでもらうようにしてました。意外と共存共栄してましたよ」  屋台が姿を消してから彼らがどこに行ったのか心配だとも日本人経営者は話す。 「うちは夜10時で閉店するのですが、屋台はそのまま深夜まで営業していたので、店のドアが壊されるのを防げたり、治安の面でも助かっていました」(同)  もちろん、中国ではこの手の取り締まり強化は日常茶飯事で、規制→消滅→復活→規制とイタチごっこな状況を繰り返している。それゆえ、副市長の交代などのタイミングでいつの間にか復活する可能性も否めない。しかし、もし、このまま違法屋台が復活しないのであれば、少し寂しい反面、人治国家と揶揄される中国も少しは法治国家への歩みを進めたということなのかもしれない。 <取材・文・撮影/我妻伊都(Twitter ID:@ito_wagatsuma
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