注意に耳を貸さない、職場の“困ったちゃん”との付き合い方は?
2015.09.28
他人に注意を促すのは難しい。細心の注意を払ったつもりでも、好意的に受け止めてもらえないこともある。都合が悪くなると黙りこんだり、逆ギレめいた反論をぶつけてきたり。聞く耳を持たない、職場の“困ったちゃん”にどう対処すべきか。
今回は刀鍛冶・長曽祢興里(のちの”虎徹”)の生涯を描いた『いっしん虎徹』(山本謙一著/文春文庫)から打開策を探りたい。主人公・興里は甲冑鍛冶から刀鍛冶に転身。“己が鍛えた兜をたたき割る刀”を作りたいという夢を追い続ける。
主人公・興里はあるとき、商売敵から貴重な“南蛮鉄”を仕入れる。売り言葉に買い言葉で高値を払ったものの、粗悪なシロモノだったことに腹を立てる興里。叔父の才市は「ダメだと言うことがわかっただけ、ひとつ利口になったと喜べ」と笑い飛ばす。
トラブルに出くわすと、つい後悔ばかりが先に立つ。しかし、目を向けるべきは今後の対策。目の前の現実をポジティブに受け止められるよう、無理矢理にでも意識を切り変える。すると、思考停止に陥ることなく、すぐさま問題解決に向けて動き出せるはずだ。
“理想の刀”を必死に追い求める主人公・興里。勢いあまって、しばしば迷走する。叔父の才市は「最初の直感を信じろ。おまえの世界はそこからしか開かない」とアドバイスする。
聞く耳を持たない相手に注意するのは骨が折れる。だが、うっかり見逃すとトラブルは拡大する。「注意しないとマズい」という直感を手がかりに、冷徹な状況を見極める。言いにくいことを指摘するのも、中堅社員以上に求められる役割だと心しておきたい。
夏の暑い盛りになると、多くの刀鍛冶が火を使う作業を避ける。だが、興里は迷わず火を起こす。弟子が不満をもらすと「つらいときは、鉄を打て。苦しいときは、鉄を打て」とバッサリ。
頭でわかっていても、感情がついてこないこともある。そんなときは無心になるべく目の前の課題に取り組むのも手だ。ひたすら没頭することが雑念を払い、さらに没頭しやすい環境を作る。何はともあれ、手を動かせという先人の教えは現代にも役立つ。
意志の疎通が図りづらい相手とのやりとりはつらく、早々に投げ出したくもなる。しかし、根気強く試行錯誤を重ねると、コミュニケーションの幅は自然と広がり、応用力が高まる。どこの職場にもいる“困ったアイツ”は、打たれ強さをもたらす格好のトレーナーでもあるのだ。
<文/島影真奈美>
―【仕事に効く時代小説】『いっしん虎徹』(山本謙一著/文春文庫)―
<プロフィール>
しまかげ・まなみ/フリーのライター&編集。モテ・非モテ問題から資産運用まで幅広いジャンルを手がける。共著に『オンナの[建前⇔本音]翻訳辞典』シリーズ(扶桑社)。『定年後の暮らしとお金の基礎知識2014』(扶桑社)『レベル別冷え退治バイブル』(同)ほか、多数の書籍・ムックを手がける。12歳で司馬遼太郎の『新選組血風録』『燃えよ剣』にハマリ、全作品を読破。以来、藤沢周平に山田風太郎、岡本綺堂、隆慶一郎、浅田次郎、山本一力、宮部みゆき、朝井まかて、和田竜と新旧時代小説を読みあさる。書籍や雑誌、マンガの月間消費量は150冊以上。マンガ大賞選考委員でもある。
「駄目だということがわかっただけ、ひとつ利口になったと喜べ」
「最初の直感を信じろ。おまえの世界はそこからしか開かない」
「つらいときは、鉄を打て。苦しいときは鉄を打て」
『いっしん虎徹』 伝説の刀鍛冶、長曽祢興里こと虎徹の、鉄と共に歩み、己の道を貫いた炎の生涯を描く傑作長編 |
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