米国のシェールガス、環境破壊や誘発地震が将来に暗雲

photo by K A(CC BY 2.0)

 原油価格の下落を導いたひとつが米国とカナダによる多量のシェールオイルの採取である。OPECの産油量と同等のボリュームを産油して世界の原油需要に比べ供給過剰になっている為だ。しかし、シェールオイルは採油コストが非常に高い上に、新たな社会問題が生まれている。  採油に必要なフラッキング(酸や摩擦低減剤などの化学物質を添加した水を超高圧で地下の岩体に注入して破砕する方法)による公害の発生が米国社会で注目を集めるようになっているのだ。その先便を切ってバーモント州ではフラッキングが禁止となった。またニューヨーク州とメリーランド州もフラッキングの弊害が明確になり次第、禁止する姿勢にあるという。ちなみに、ヨーロッパではフランス、オランダ、ブルガリアでは既にフラッキングが法的に禁止されている。  9月17日付スペイン電子紙『dirigentesdigital』によると、〈米国にはシェールオイル・ガスの坑井が101,117個あり、カナダが16,990個〉という。そして〈米国のシェール坑井の56%が天然ガス、48%がオイルだ〉という。そして米国の坑井の掘削に伴うフラッキングの弊害が〈環境と水の汚染、地震の多発、健康問題に現れている〉と報じている。  ひとつの坑井をフラッキングするには9000-2万9000tの水が必要とされ、ひとつのプラットフォームを形成するのに6つの坑井が必要で、その為に5万4000-17万4000tの水が必要とされる。6つの坑井を備えたプラットフォームを完成させるのに8~12か月が必要だという。  坑井を掘って行く過程で注入する大量の水の中に注入される化学物質は長い間「企業秘密」とされていたが、ある研究ではラドン、ラジウム、ウラニウムなどの放射能物質や、他に360種類の有毒性の化学物質が含まれていることが明らかになったという。勿論、これらは人体に有害だ。(参照『dirigentes degital』)。  また、フラッキングに使用された大量の水に含まれた2500品目の物質の中で650品目から人体に発がん性の恐れのある物質が検出されたというリポートもある。(参照「El desconcierto」)。  ノースカロライナ州のデューク大学が2011年5月に発表した研究ではニューヨーク州とペンシルバニア州の天然ガスシェール産地の近くの住宅がメタンガスに汚染されてていたことが証明されている。また2008年には、オハイオ州の住宅の水道管と地下がメタンガスに汚染されていたケースもあったという。  大量に坑道に注入された化学物質を含んだ水が地下に残留し、帯水層に侵入して地下水を汚染したり、水に炭化水素が混入する可能性も充分にあるといわれているのだ。  更に、弊害として指摘されているのが誘発地震だ。その事例で顕著だったのは2011年にオクラホマ州で起きた震度5.7の地震だ。この地震で住宅破損や負傷者が出た。同州ではフラッキングが盛んになった7年前から600回の微震が発生している。2008年までは、年間に僅か2回の微震が起きていただけであったという。カンサス州とテキサス州でも最近6年間で誘導地震が多発しているという(参照『dirigentesdigital』)。  他にも、採掘時に発生するガスが大気中に洩れて人体などに影響を及ぼしたこともある。  このように、環境や人体に弊害があっても、米国は原油と天然ガスの自給自足を維持して行く為に、新しい坑井を掘削して行かねばならない運命にある。何故なら、フラッキングによる採掘では2年目になると、産出能力は60-70%減少するからである。  しかし、現行のバレル40ドル台の価格ではシェールオイルは採算ベースに乗らない。米国は今後も社会的弊害を無視してもシェールオイル・ガスの開発を続けて行くのか、或いはフラッキングによる公害を重視してシェールオイルの開発を縮小して、原油の輸入国となって行くのか選択を迫られることになる。  日本も昨年から秋田県の鮎川油ガス田からシェールオイルの採油が始まっているが、その規模はまだ小さく公害問題にまで発展していない。しかし、シェール産業が発展して行けば、米国で発生しているような公害が起きる可能性は充分にある。 <文/白石和幸 photo by K A(CC BY 2.0)> しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなす。
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身
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