業績悪化のHTC。現地ユーザーの反応は?

台湾HTC01 2015年以降の急激な株価下落により、時価総額が手持ちキャッシュを下回り、実質上“企業価値ゼロ”となった台湾のスマホメーカー・HTC。さらに9/5には、台湾証券取引所の株価指数「TWSE 50(台湾優良株50)」から除外されることも発表され、もはや落日の大企業を見るかのような有様だ。  そもそもPalmやiPAQの製造などを請け負う下請け企業だったHTCが、その名を世界に知らしめたのが、世界初となるスマホ・HTC Dreamのリリース(2008年)だった。その後、ブームに乗り、スマホ分野で世界第4位のシェアを占める企業に成長するが、2012年以降、サムスンやAppleに徐々にシェアを奪われ、最近ではXiaomi(シャオミ)やHuawei(ファーウェイ)といった安価なスマホを供給する中国企業にも押されている状況だ。こうしたなか、株価も大きく下落。好調だった2011年の20分の1以下にまで、価格を落としている。 ⇒【資料】はコチラ https://hbol.jp/?attachment_id=59537
台湾HTC02

【HTC株価の推移】 ロイターより

 もちろん台湾現地でも、HTC関連のニュースは連日のように報道され、倒産や買収の噂を立てるメディアも多い。しかし、加熱する報道に反して、現地ユーザーの反応は意外にも冷静だ。

HTCはプラスチックグループが潰さない

光華数位新天地・新館

光華数位新天地・新館には、中国メーカーも数多く出店。しかし、新しくできたHTCブースも、あいかわらずの人混みだった

「潰れる? ありえないです(笑)。台湾ではHTCのスマホを使っている人が一番多いと思いますよ」  台湾の秋葉原こと光華数位新天地に買い物に来ていた若者は、自信満々にそう答えた。こうした意見の背景には、台湾国内でのHTC端末販売実績が、国外ほど不調ではないことも理由にあるだろうが、HTCの王会長が台湾最大の財閥・プラスチックグループの創業者・王永慶氏の娘であることも、深く関係していそうだ。  実際、株価がピーク時の10分の1になった2013年には、華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)、中興通訊(ZTE)、聯想電脳(レノボ)などといった企業がHTCの買収を狙ったが、結局実現することはなかった。つまり、事業は停滞していても、敵対的買収に対抗する財源は、グループ企業を含めれば、まだまだ豊富にあるというわけだ。そして、今回の株価急落の事態に際しても、プラスチックグループがきっと救いの手を差し伸べるだろうと、多くのユーザーが考えている。  また、プラスチックグループには「お客一番、同僚第二、株主最後」という企業信念があり、このポリシーを台湾人は愛して止まない。実際、プラスチックグループの一つ、ステーキハウス・王品のオーナーが、Facebook上で社会人になる自分の息子に送った「目先の利益だけにとらわれず、人とのご縁を大切にしなさい」というメッセージが、台湾中を感動させたことがある。シェアする文化が根付いた台湾では、たとえ現実は厳しくとも「信じたい」「応援したい」という気持ちもあるのかもしれない。
台湾HTC04

光華数位新天地・旧館の象徴ともいえるHTCの広告。海外での業績は不振だが、台湾では不動の一番人気だ

 独自AI・HTC senseなど端末の性能について言えば、疑問の余地のないHTCだが、VRヘッドセット開発から日本でのSIMフリー端末の発売(9/29)まで、最近発表された新展開は、ことごとくコケそうな予感がする。しかし、たとえメディアが面白おかしく騒ごうとも、この“愛すべき企業”を台湾人が見捨てることは、少なくともなさそうだ。<文・写真/HBO編集部>
バナー 日本を壊した安倍政権
新着記事

ハーバービジネスオンライン編集部からのお知らせ

政治・経済

コロナ禍でむしろ沁みる「全員悪人」の祭典。映画『ジェントルメン』の魅力

カルチャー・スポーツ

頻発する「検索汚染」とキーワードによる検索の限界

社会

ロンドン再封鎖16週目。最終回・英国社会は「新たな段階」に。<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

国際

仮想通貨は“仮想”な存在なのか? 拡大する現実世界への影響

政治・経済

漫画『進撃の巨人』で政治のエッセンスを。 良質なエンターテイメントは「政治離れ」の処方箋

カルチャー・スポーツ

上司の「応援」なんて部下には響かない!? 今すぐ職場に導入するべきモチベーションアップの方法

社会

64bitへのWindowsの流れ。そして、32bit版Windowsの終焉

社会

再び訪れる「就職氷河期」。縁故優遇政権を終わらせるのは今

政治・経済

微表情研究の世界的権威に聞いた、AI表情分析技術の展望

社会

PDFの生みの親、チャールズ・ゲシキ氏死去。その技術と歴史を振り返る

社会

新年度で登場した「どうしてもソリが合わない同僚」と付き合う方法

社会

マンガでわかる「ウイルスの変異」ってなに?

社会

アンソニー・ホプキンスのオスカー受賞は「番狂わせ」なんかじゃない! 映画『ファーザー』のここが凄い

カルチャー・スポーツ

ネットで話題の「陰謀論チャート」を徹底解説&日本語訳してみた

社会

ロンドン再封鎖15週目。肥満やペットに現れ出したニューノーマル社会の歪み<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

社会

「ケーキの出前」に「高級ブランドのサブスク」も――コロナ禍のなか「進化」する百貨店

政治・経済

「高度外国人材」という言葉に潜む欺瞞と、日本が搾取し依存する圧倒的多数の外国人労働者の実像とは?

社会