ドイツ、香港、台湾の地図から見える各国の深謀遠慮
以前、「中国の2015年最新世界地図に「中国の領土戦略」を垣間見た」という記事で、中国の最新地図で日本がどのように描かれているか紹介したが、今回は、ドイツ、それから、台湾、香港の地図について、日本や日本周辺の描かれ方を紹介しよう。
ドイツの大型書店で入手したのは、サイズの異なるクルクル巻く筒状タイプの地図で、「スティーフェル社」発行の地図だ。
同社は、欧州に多くの拠点を持ちデジタル印刷や地図製作、発行など手がけている。今回、購入したのは小サイズのほう。
地図を広げると当然ながらヨーロッパが中心に据えられている。極東でまず目に飛び込んでくるのは、北方領土がロシア領として国境線が引かれている点だ。
続いて日本海の呼称を見てみるとドイツ語で日本海とだけ書かれている。朝鮮半島は、一般的な日本の英文地図同様に南北の呼称で分けられている。世界地図なのでスケール的な意味でも当たり前なのだが、竹島の記載は見当たらない。
台湾へ目を移してみると、台湾は独立国として描かれており、中台の間に赤い国境線が引かれている。中国が南シナ海、南沙諸島で一方的に主張する「十段線」はなく、明確な国境線は引かれていなかった。
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次は台湾の出版社、「珊如図書出版」が発行する世界地図と日本地図だ。
世界地図は、日本がほぼ中心に配置されており、日本発行の地図と同じ印象を受ける。その日本周辺を見ると、日本海と東海が併記されている。さらに、韓国は韓国で、北朝鮮は北韓と書かれており、韓国が主張する国名、呼称を取り入れた地図となっている。硫黄島には日本帰属と書かれているが、北方領土には国境線が引かれておらず、北方4島と千島列島には島名しか書かれていない。また、ドイツのように色分けもされていないので帰属国が曖昧になっている。
南方へ目を移して発行国である台湾を見ると、当然ながら独立国「中華民国(台湾)」となっているも、中台間に国境線はない。また、釣魚台列島の記載はあるものの帰属や国境線はなく、中国が主張する十段線も見られない。このように台湾周辺もかなり曖昧だ。
では日本地図はどうだろう? 先ほどの世界地図では日本海と東海が併記されていたが、日本地図では日本海単体表記となっている。竹島はない。また、別枠の北海道に北方領土の記載とともに4島のうち3島だけが中途半端に描かれている。同じく別枠の沖縄では、尖閣諸島は絶妙に枠外で描かれていない。裏面には、東京、横浜、名古屋、大阪、奈良の都市マップが載っている。
しかし、折りたたんだ表紙面の国旗下の日本列島を改めて見ると、”独島”の記載が……。しかも、日本海と東海の併記も見られる。表紙と中身が異なるダブルスタンダード状態だ。
今回は、珊如図書出版以外の地図は検証していないので正確には不明だが、この出版社は、その国の主張に沿った地図を作り、問題となりそうな箇所は曖昧にしている。まさに台湾が置かれている状況を反映しているかのようだ。
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最後に香港の世界地図と中国本土の地図を検証してみたい。世界地図は、「通用図書」。中国地図は、「協文出版社」がそれぞれ発行しており、香港の大手オンライン書店「スーパーブックシティ(超閲網」)」でも購入することができる。2部を約750円で購入できた。
現在、香港は中国ルールで地図を発行しているため、中国本土の発行地図とほぼ同じになっている。まず、世界地図の日本列島を眺めて気づくのは、海岸線などの形状が大雑把であること。北方領土は日本領土扱いで、台湾、尖閣諸島は中国領土と描かれている。もちろん十段線もしっかりと引かれている。日本海は単体表記。竹島なし。北朝鮮は朝鮮、韓国は韓国と表記するのも中国本土と同じだ。
くまなく検証した結果、中国本土の地図との違いを北方領土で見つけることができた。国境線や色分け上は日本領としているが、島名の隣にロシア占領と実効支配されていることが書き添えられている。たとえば、国後島(ロ占)と言った具合だ。
さて最後に協文の中国本土地図だ。日本と朝鮮半島周辺を見ると、基本は中国ルールで描かれている。日本海に竹島は載っていないが、なぜか鬱陵(ウルルン)島 だけポツンと描かれている。
北朝鮮は北韓。韓国は南韓と表記されており、北朝鮮の両側の海を東西朝鮮湾との記載が見られる。十段線の南シナ海、南沙諸島は2年前までの中国の地図同様に別枠で掲載されている。
この地図は、韓国、北朝鮮に一定の配慮を見せながらも中朝で領有権を争う白頭山(中国名 長白山)が載っていないなど中国の思惑も濃いものとなっているが、本土の地図よりも2、3年ほど前の形式なのは香港が中国に対し何かしらを抗っているのかもしれない……などと想像しながら見ると、各国の地図を眺めるのも面白い。
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<取材・文・撮影/我妻伊都(Twitter ID:@ito_wagatsuma )>
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