ZARAの本拠地スペインでその牙城を揺るがすブランドが台頭

photo by Xmate09(CC BY 3.0)

 1975年にスペインの北東部のガリシア地方に誕生したZARAはファストファッション市場の世界のパイオニアでありトップリーダーだ。その創業者・アマンシオ・オルテガについては、HBOでも何度か報じてきた(参照:「ファストファッションの世界を制した男――ZARA創業者の実像」)。  その親会社インディテックス(INDITEX)はZARA以外に7社を傘下に収めて、世界88カ国に進出し6746店舗を有している。そして、今年の第1四半期は5億2100万ユーロ(687億7200万円)の経常利益を上げた。これは昨年同期比で28%の上昇であるという。  店舗の増加は、ロシアと中国が特にその牽引役になっている。今年6月までにロシアは472店舗、中国は509店舗を構えるまでになった。  しかし、ここ最近、ZARAの本拠地であるスペインでその牙城を脅かすブランドが台頭している。 『PRIMARK』というブランドである。  ZARAは安価であるという代名詞になっていた。しかし、『PRIMARK』の登場でそのイメージが崩れているのだ。 『PRIMARKは』は、アイルランドのダブリンで1969年に1号店が誕生したブランドだ。元々は、前年度の商品を安く提供するというのが同ブランドのポリシーであった。その後、激安ブランドに変身して1973年に英国に進出。スペイン紙『El Pais』の記事によれば、〈ロンドンのオクスフォード通りで僅か10日間に100万着を販売したという実績をもっている〉という。  そして英国市場で着実にセールスを伸ばすと、次に挑戦市場として進出を決めたのがZARAのメッカであるスペインだった。2006年にマドリードに店を構えた。そして現在までアイルランド、英国、スペインとで200店舗近くになっている。

不況のスペインを席巻する「激安ブランド」

『PRIMARK』が対象としている消費者は35才以下の若者。そこでは〈著名デザイナーブランドの数百ユーロするクロェ(Chloe)バッグからインスピレーションを得たバッグが僅かに8ユーロ(1,000円)で販売されている。またバレンシアガ(Balenciaga)の1,172ユーロ(154,000円)もするミリタリーコートから同じくインスピレーションさせたコートが僅か17ユーロ(2,200円)〉で販売されている〉という記事が2008年のスペイン紙『El Pais』で掲載された。そして同紙の今年4月の記事でも〈激安チェーンショップがスペインアパレル市場で12.2%を占めるまで成長した〉と報じた。その中でも〈『PRIMARK』が断然優位なポジションを保っている〉と報じ、昨年の同社の〈スペインでの売上は9億7200万ユーロ(1,283億円)で、スペインで2番目のアパレル小売業者となっている〉と伝えた。  非常に安い価格で提供出来る理由として、生産コストの常に安い所を世界から探して行くということ、そして営業も各店長が会社の役員のごとく決めて行くという単純組織になっている。広告は一切しない。ネット販売も殆んど無いような状態だという。そして低マージンで商品回転率を最高に高める。この巧みなコンビーネションを大事にしているという。  もちろんZARAを抱えるインデックスも黙ってはいない。『PRIMARK』の躍進を前に新しい激安ブランドショップを開設した。その名を『lefties』という。今年3月までにスペイン、ポルトガル、メキシコ、ロシアの4カ国で105店舗を構えて販売しており、昨年の売上は1億3,190万ユーロ(174億円)で、その78%がスペインでの販売だ。 『PRIMARK』のスペインでの売上 に比較すると『lefties』の売上はまだほど遠いが、スペインでの激安ファッション市場は2011年は7.3%であったのが、2014年には12.2%に伸びている。世界的な不況市場では消費者は売る側が常に特別販売セールをするか、或いは定期的なバーゲンセールを待つ傾向にある。その意味で他社よりも常に安い価格で年中商品を提供している激安ファッション市場は世界の不況が続く限り伸展して行く傾向にある。  また、ここスペインを始め欧州では、新しいファッションとして高級物と超安価物を上手くコンビネーションして着こなすという流行も生まれている。高級ブランドと廉価ブランドが共存共栄して行く道が僅かづつ拓けているということであろう。 <取材・文/白石和幸> しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなしていた。
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身
ハッシュタグ
バナー 日本を壊した安倍政権
新着記事

ハーバービジネスオンライン編集部からのお知らせ

政治・経済

コロナ禍でむしろ沁みる「全員悪人」の祭典。映画『ジェントルメン』の魅力

カルチャー・スポーツ

頻発する「検索汚染」とキーワードによる検索の限界

社会

ロンドン再封鎖16週目。最終回・英国社会は「新たな段階」に。<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

国際

仮想通貨は“仮想”な存在なのか? 拡大する現実世界への影響

政治・経済

漫画『進撃の巨人』で政治のエッセンスを。 良質なエンターテイメントは「政治離れ」の処方箋

カルチャー・スポーツ

上司の「応援」なんて部下には響かない!? 今すぐ職場に導入するべきモチベーションアップの方法

社会

64bitへのWindowsの流れ。そして、32bit版Windowsの終焉

社会

再び訪れる「就職氷河期」。縁故優遇政権を終わらせるのは今

政治・経済

微表情研究の世界的権威に聞いた、AI表情分析技術の展望

社会

PDFの生みの親、チャールズ・ゲシキ氏死去。その技術と歴史を振り返る

社会

新年度で登場した「どうしてもソリが合わない同僚」と付き合う方法

社会

マンガでわかる「ウイルスの変異」ってなに?

社会

アンソニー・ホプキンスのオスカー受賞は「番狂わせ」なんかじゃない! 映画『ファーザー』のここが凄い

カルチャー・スポーツ

ネットで話題の「陰謀論チャート」を徹底解説&日本語訳してみた

社会

ロンドン再封鎖15週目。肥満やペットに現れ出したニューノーマル社会の歪み<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

社会

「ケーキの出前」に「高級ブランドのサブスク」も――コロナ禍のなか「進化」する百貨店

政治・経済

「高度外国人材」という言葉に潜む欺瞞と、日本が搾取し依存する圧倒的多数の外国人労働者の実像とは?

社会