報酬165億円の男、ソフトバンク・アローラ氏の実力と評判

ニケシュ・アローラ氏

ニケシュ・アローラ氏

 今年6月にソフトバンクの株主総会で社長の孫正義氏が「後継者の筆頭」としてソフトバンクの副社長に任命したニケシュ・アローラ氏。その役員報酬額は165億円と破格だが、このアローラ氏とは、どんな人物なのだろうか。「孫さんが彼を後継者筆頭にした決め手は2つあります」と語るのは、ソフトバンク前社長室長の嶋聡氏だ。 「孫さんには、2030年に時価総額200兆円で世界のトップ10になるという目標があります。そのためには、10年で時価総額を5倍にできる後継者を据えなければならない。今のソフトバンクの時価総額は約9兆円ですから、次の後継者で45兆円にしないといけないわけです。でも日本のトップに君臨するトヨタでさえ、時価総額は約28兆円。日本に目標を実現できる人材がいないと見た孫さんは、時価総額約44兆円のグーグルで上級副社長を務めたアローラ氏に目をつけたというわけです」 ソフトバンク また今後、スマートフォンの普及率がアジア圏で爆発的に伸びることにも関係があるという。 「2019年までにスマートフォンを使う人口が20億人ぐらいになる予測ですが、そのうち8割はアジア人だと言われています。日本の10倍の人口を有し、発展途上にあるインドは今後、重要な国になる。アジアを制するためにも、アローラ氏がインド人であるということも好材料なのです」  とはいえ、165億円という報酬額に驚いた人も多いはずだ。これは孫氏自身の役員報酬1億3100万円を大きく上回り、国内企業が外国人幹部に支払った報酬としては過去最高額となる。この金額は妥当なのだろうか? 「内訳は公表されていませんが、165億円には契約金も含まれています。世界基準で見れば、優秀なCEOを他社からスカウトするときに、将来の成果を見込んだ報酬を支払うのは当然。アローラ氏は、グーグルでも約60億円の報酬をもらっていたわけですから。それをソフトバンクが初めてやっただけで、日本もいずれそういう風潮になっていくと思います」  アローラ氏を後継者にしたことで、従来の幹部たちはどう感じているのか。嶋氏によると、「就任発表直後は戸惑いがあったかもしれませんが、ソフトバンクの幹部たちは張り切っていますよ」と話す。
嶋 聡氏

嶋 聡氏

「なぜなら今まで孫さんは通信事業に力を入れてきたんです。でも今回の人事で取締役に退き、投資事業に本腰を入れる。つまり、日本国内の通信事業は従来の幹部に任せるということになったんです。だから副社長だった宮内さんも社長になったし、他の幹部もやる気にあふれていますよ。一方のアローラ氏も、6月の社員総会でスピーチしたときに、孫さんに一生懸命日本語を聞いて、『ガンバルロー!(頑張ろうー!)』と言ったり。すごく日本人に馴染もうと努力していましたよ」  孫氏とアローラ氏のタッグで、投資部門を進めていくソフトバンク。現在アローラ氏は、アジアへの投資事業を急拡大している。 「彼はインドや韓国などのネット通販や配車サービス分野に大きく投資している。そのどれかが、20億円投資して時価総額約8兆円になったアリババのように化けるかもしれない。さらに孫さんはインドでの太陽光発電の事業を進めているのですが、インドは分権化されていて州ごとに法律が違うんです。聞くところによると、アローラ氏の奥さんは財閥のご令嬢だそうですから、そういうところでも彼の人脈が役立ってくるわけです。ですからソフトバンクの将来を考えれば、165億円は全然高くないんですよ」  これから165億円男の実力はどのように発揮されるのか。注目しておいて損はないだろう。 【嶋 聡氏】 多摩大学客員教授・前ソフトバンク社長室長。近著『孫正義の参謀 ソフトバンク社長室長3000日』(東洋経済新報社)など多数の書籍を執筆
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