「安倍政権の生みの親」、伊藤哲夫と生長の家原理主義者ネットワーク――シリーズ【草の根保守の蠢動 第13回】

「日本を取り戻す」という言葉が踊る日本政策研究センターのトップページ

 さて、今回から、日本会議および日本青年協議会から少し離れ、伊藤哲夫・日本政策研究センター代表をこの連載の検討対象としていく。日本青年協議会から離れるとはいうものの、伊藤哲夫氏も日本青年協議会と同じく、「生長の家原理主義者ネットワーク」に属する人物だ。  おそらく、一般の読者に、伊藤哲夫氏の名前は馴染みが薄かろうと思う。しかし、この伊藤哲夫氏、第一次安倍政権発足以前から、安倍晋三の周りに常に付き従い、一部では「安倍政権の生みの親」とさえ言われる人物でもある。

安倍晋三のブレーンとして登場

 まずは、伊藤氏にまつわるこれまでの報道を振り返ってみよう。  例えば文藝春秋。  2013年1月、文藝春秋は、「安倍政権の命運を握る『新・四人組』」と題する論説記事を、「赤坂太郎」名義の論説として発表した。この記事は、衛藤晟一首相補佐官の来歴を「右派の学生運動出身」と紹介したのち、 “今や、安倍の有力なブレーンとなっている右派のシンクタンク「日本政策研究センター」の伊藤哲夫代表を、若き日の安倍に紹介したのも衛藤だった。”  と、伊藤哲夫氏を「安倍の有力なブレーン」として紹介している。  伊藤哲夫氏が安倍晋三のブレーンとして報道されるのは、この文藝春秋の記事が初めてではない。  2006年9月9日付の東京新聞朝刊に掲載された「『安倍氏ブレーン』どんな人?靖国、拉致、教育問題…」という記事でも、 “六月三十日。都内のホテルの一室に、安倍氏側近の一人、下村博文衆院議員を囲み、四人の学者・有識者が集まった。メンバーは、伊藤哲夫・日本政策研究センター所長、東京基督教大の西岡力教授、福井県立大の島田洋一教授、高崎経済大の八木秀次教授。ここに京都大の中西輝政教授を加え、安倍氏のブレーン「五人組」と称される。”  と、伊藤哲夫氏を、安倍ブレーンの「五人組」の筆頭として紹介している。  2006年9月といえば、第一次安倍内閣発足直前。このころから、一部のメディアでは伊藤哲夫氏が安倍晋三周辺で果たしている役割を重要視していたようだ。  しかしながら、文藝春秋の赤坂太郎名義による記事も、東京新聞の記事も、伊藤哲夫氏が生長の家関係者であることまでは何故かしら踏み込んでいない。  この連載を注意深く読み続けてくださっている読者各位にとっては、特に、文藝春秋の記事を口惜しく感じられるだろう。せっかく、衛藤晟一の来歴にあそこまで触れながらなぜ「生長の家」の存在や「生長の家学生運動」に言及しないのかと。  とまれ、まずは、これらの記事に頼るだけでなく、伊藤哲夫氏および、伊藤氏が代表をつとめる「日本政策研究センター」が安倍政権とどのような関係にあるか、検証していこう。

安倍政権の機関誌のような『明日への選択』

 日本政策研究センターは、毎月、『明日への選択』という機関誌を発行している。この機関誌は毎月、まるで安倍政権が提案する諸政策の代弁を行っているかのような誌面構成が特徴だ。  例えば、最新号である2015年8月号の巻頭インタビューは、「「ヒゲの隊長」が語る平和安全保障法制の意義」という、佐藤正久参議院議員へのインタビュー記事だ。おそらくこれは、目下、政権側がヒゲの隊長を安保法制のスポークスマンとして起用している動きに連携したものだろう。さらに巻末の方には「これが新聞という名に値するのか・沖縄の新聞事情」というコラムが掲載されている。タイトルから予想されるように、このコラムは文化芸術懇談会での失言騒ぎを擁護することを目的としている。  またこれに先立つ7月号では「安保法制・9条改正に対する論破のポイント」と題された特集記事が掲載された。おそらく現場で議論や対話を担当する議員や議員スタッフあるいは運動員が利用することを目的に作成されたものだろう、安保法制や憲法改正に関する想定問答が懇切丁寧にびっしりと書き込まれている。  このように、安倍政権の政策を代弁するかのような誌面構成は今月号だけではない。「明日への選択」各号がどのような記事を掲載してきたか、2015年の「明日への選択」の「巻頭インタビュー」の変遷を少し振り返ってみよう。 ⇒【資料】はコチラ https://hbol.jp/?attachment_id=55644 明日への選択 総選挙の争点であった「アベノミクス」、戦後70年談話、教科書、歴史教育、改憲、日米ガイドライン、安保法制…と、この表をみれば、「明日への選択」が今年に起こった政治アジェンダと軌をいつにして誌面を構成してきたことが一目瞭然だろう。

安倍晋三のプロモーター・伊藤哲夫

 このように安倍政権の機関誌のような雑誌を発行しつづける「日本政策研究センター」を率いる伊藤哲夫氏とはいかなる人物なのか。  先に引用した文藝春秋の記事では「衛藤晟一が安倍晋三に引き合わせた」「シンクタンクの代表」と表現されてはいる。しかし伊藤哲夫氏は、単なる「政策提言するだけの人物」ではない。彼は、第一次安倍政権誕生前から、安倍晋三とべったりとくっつき、ことあるごとに彼をプロモートしてきた。  その端的な例が、2004年(平成16年)8月15日に開局した「チャンネル桜」の開局記念番組だろう。  いまでこそ、「チャンネル桜」は代表・水島総氏の特異なキャラクターと水島氏が率いる「頑張れ日本」の奇異なデモなどで名の知れた存在となっている。しかし、開局当初は、その存在さえあまり認知されない単なるCS放送の一チャンネルでしかなかった。  そんな無名の、しかも出来たばかりのCSチャンネルの開局記念番組に、未だ当選3回とはいえ自由民主党の幹事長をつとめる当時の安倍晋三が出演したのだ。異例の事態といっていいだろう。  この「チャンネル桜」開局記念番組に安倍晋三を登場させた人物こそ、伊藤哲夫氏。  そして、伊藤哲夫の手引きによってこの番組に登場した安倍晋三は、伊藤からの質問に答える形で、将来の「政権構想」まで披瀝してしまっているのだ。  次回は、チャンネル桜開局記念番組に出演した11年前の安倍晋三の発言を振り返るとともに、伊藤哲夫氏の来歴について、さらに深く掘り下げていく。  ご期待願いたい。 <取材・文/菅野完(TwitterID:@noiehoie)>
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