中国にある「北朝鮮レストラン」とは?
2014年7月4日に2006年から続いていた日本政府による朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)への制裁が一部解除された。今月末に開催されるアントニオ猪木氏プロデュースの格闘技イベントに、元2ちゃんねる管理人のひろゆき氏が同行することやニコニコ動画での中継が発表されることなどもあって、北朝鮮が俄に注目を集めている。
<取材・文・撮影/我妻 伊都>
それでも、「興味はあるけど、北朝鮮なんて普通の人が行けるのか?」と考える人が一般的だと思う。しかし、北朝鮮へ行かずとも北朝鮮を体験できる場所がある。それが、北朝鮮レストランである(通称、北レス)。北レスは中国を中心にアジアで営業されており中国だけで約70か所ある。経営会社は、貿易会社や船会社、ホテルとされるが、一部存在する朝鮮族や在日朝鮮人、韓国人経営店を除けば実質的には北朝鮮国営である。
北レスは北京、上海、深センなど大都市にもあるが、北朝鮮と国境とを接し、少数民族朝鮮族が多い吉林省、遼寧省に特に多い。
世界一のコリアンタウンがある瀋陽には約10店舗、中朝貿易の7割を占める丹東に7、8店舗集まっている。店名は、平壌館、高麗館、三千里などがメジャーブランドとなる。
中では、レストランであるが故に当然ながら北朝鮮料理を提供している。さらに、定期的にステージショーが開催されている。目的は、外貨獲得である。価格は、平均的な韓国料理店の2、3倍とやや高め。ホールスタッフは、全員北朝鮮出身の女性。料理人には中国人もおり、中国との合弁経営という形態をとっている。
肝心の北朝鮮料理については、不味くはないが、韓国料理と比べるとシーラカンスのように進化していない料理な印象を受ける。1人あたりの予算は70元から100元(約1200円から約1700円)ほど。
料理が今ひとつとなると、結局のところ北レスの目玉は、ステージショーとなる。多くの店舗で、午後7時頃から15分から30分程度行われる。バンド演奏付きの歌や朝鮮舞踊、伝統楽器の演奏、お客と一緒に輪になって踊るなど夢のような世界を堪能できる。朝鮮語か中国語の歌が中心だが、日本人客がいると「北国の春」や「時の流れに身をまかせ」など日本語の楽曲を歌ってくれることもある。
大連にある北レスの「平壌餐庁」で取材したところによれば、女性は平壌の芸術系大学の現役学生か卒業生で3年ほどインターンとして各地の北レスを転々としながら働くのだという。出国前に中国語の日常会話は勉強してくるので中国人とのコミュニケーションもとれる。帰国後、多くのコは党の人間とお見合い結婚するそうだ。若いコは18歳、最年長でも20代後半くらいか。さすが選ばれたコたちなので朝鮮美人が多い。彼女たちは、注文から配膳、ステージショーまで何でもテキパキとこなす。サービスレベルが残念すぎる中国にいると輝いて感じてくるから不思議だ。
北レスの女のコたちの住まいは5、6人での集団生活で、店の上の部屋に住むケースもあるが、多くは徒歩圏内の部屋に住み、小学生の集団登校のように一緒に出勤し、一緒に帰る。定休日は元旦と旧正月くらいでほぼ年中無休。休みは月2、3日で、自由行動はなく、相互監視も兼ねて集団外出するそうだ。
彼女たちと会話ができるかできないかは、店舗によって雲泥の差。新しく大きな旗艦店的な店ほど厳しく、話しかけてもスルーされる。写真撮影も厳しくカメラを取り出すだけで”指導”される。ニコリとも笑ってくれず、ツーショット写真なんて夢のまた夢。とはいえ、客層の中心は写真好きな中国人である。所構わずフラッシュを焚いてバシバシと撮りまくっては店とモメている光景をよく見る。特に厳しい店の筆頭は、世界最大規模の丹東高麗館や世界一華麗な玉流館(瀋陽)あたりなので、もし行くことがあれば注意したほうがいいだろう。
一方、小規模やローカル北レスでは、1テーブルに1人女のコがつき色々と会話が楽しめる店もある。「普段は何をやっているの?」「お父さんの仕事は?」「将来の夢は?」なんてことも聞けて彼女たちの日常が感じられて楽しい。大連の平壌館も有名店ながら、撮影しても指導されず、女の子とツーショットも撮らせてくれる。数回通って顔見知りとなると、平壌の写真や動画を見て一緒にキャッキャ盛り上がったりもする。北レスの醍醐味が感じられる瞬間だ。
北レスは、北朝鮮のいい部分しか出していない場所とはいうものの、日本人にとっては比較的行きやすい「北朝鮮を感じられる場所」なので、中国に行った折には立ち寄ってみるのもありかもしれない。
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