「新生姜」のイメージを一新させた岩下食品が次に目指すもの

 漬物市場の低迷により売り上げに伸び悩む中、「岩下の新生姜」の価値転換という新たな活路を見出した岩下食品。ミュージアムに代表されるPR施策により、外向けには新生姜のイメージ刷新に成功したように見える。実際のところ、これらの施策を展開するようになってから、漬物売り場以外での売上が2ケタ成長となったという。
岩下和了社長

岩下和了社長

「『新生姜』のような単価の安い商品は、単品の売り上げが多少上昇しても、著しい営業利益の向上はつながりません。売場や取り扱い店舗が増えるぐらいのレベルまで浸透して初めて、売上は有意に向上すると認識しています」(岩下氏)  今年7月21日からは東京・神奈川のセブン-イレブン約3000店舗でカップ入りのスライスタイプ新生姜の販売をスタート。スーパーに行かなくても色々な場所で新生姜が手に入るようになればいい、という岩下氏の目標が形になりつつある。  だが、ここに至るまでの道程は平坦ではなかった。岩下社長が前面に立つまでのPR施策は、店頭での商品展開などとからめた販売を行う営業部の後方支援としての位置づけに留まっていた。それまで、取引先との商談のためのプロモーション材料を提供してきたマーケティング部隊がユーザーに向けた施策を先導して進める部隊へと変化したのは、ここ3、4年くらいの間のことだという。同様に社内変化の象徴とも言えるのが、岩下商品社員有志によるブログ「ちょっとそこまで新生姜」。ユーザーにユニークな方法で情報発信を行っている。 「『しんしょうがくん』という新キャラクターを考えるなど、かなり思いきった企画で商品を盛り上げようとしてくれています。弊社が制定した『らっきょうの日(6月6日)』にはごはんの代わりにらっきょうをお皿に敷き詰め、その上からカレーをかけて食べるという独自の広報活動をしていました。絵面がおもしろくて、バカだなと感心したものです。自分を出し切ることで、人の心を動かす仕事ができる。それが僕の考え方です」(岩下氏)  もっとも、食品会社にとっての「顧客」はユーザーだけではない。日常で直接取引をする相手は、スーパーや問屋などの企業であり、“お得意先”との長年の関係性や営業スタイルが、一朝一夕に大きく変えられるわけではない。 「情報はダイレクトにユーザーに伝わりますが、商品はそうはいかない。小売店や問屋を経由しなければ、消費者には届きません。私どもが情報を発信するときには、消費者目線の発想を土台にしたい。そのためには、取引先の店舗の別のコーナーで販売をしたり新しい店舗に置いてもらうなど、新たな販路を開拓する必要がある。まずは漬物売場以外のところで新生姜が消費されているという実績を作った上で、店舗との関係や営業スタイルを再構築していくことが課題です」(岩下氏)

後ろ盾をしっかりと作ることで、施策を活かす

「消費者目線の発想」への兆しを見せているのが、エンドユーザーとの交流による商品開発の変化だ。岩下食品が扱う商品数は、季節限定品なども合わせると約400アイテム。その中にはTwitterから生まれたものも存在する。新生姜を漬ける「岩下漬けの素」や食べるマヨネーズというキャッチコピーの「プチとろ」だ。新生姜の漬け液に野菜やうずらの卵などを漬け込んだ新生姜ファン考案のレシピがきっかけになったそう。2012年にはファンブック『We Love 岩下の新生姜― ツイッターから生まれたFANBOOK』(マガジンハウス)も発売された。 「うちが協賛している野外音楽イベント『ベリテンライブ』では、新生姜を串刺しにした『岩下の新生姜 一本串』を2012年より販売しています。『フェスで新生姜を食べたい』というユーザーからの声を元に生まれたメニューです」(岩下氏)  7月にはテレビ番組「月曜から夜ふかし」(日テレ系)への出演や歌手・女優の畑中葉子のイベント「後ろから前からTシャツ祭り!!」への登壇をするなど、岩下氏自身の露出も増えている。 「普段交流している私がネットを飛び出して『リアル』な場所に登場すれば、知り合いが出ているようなおもしろさをユーザーに提供できる。変な社長として扱われても、よろこんでもらえるならいいかなと。プロモーションは地面に粉をまくようなもの。ここぞという時に粉を舞い上がらせるためには、まいた粉を常に自覚しておくことが大切です」(岩下氏)  ネットを活用はするがそれだけを盲信せず、「リアル」の土台も築く。Twitterにイベント協賛や登壇、さらには「岩下の新生姜ミュージアム」などあらゆる場所に粉をまき、風を吹かせる努力をする。 「新生姜の可能性を広げる施策に取り組むうちに、新生姜ファンの声を直接耳にすることができるようになった。漬物市場の内側にいたときには“お客様の年齢”にとらわれていましたが、市場から飛び出したことで、お客様が見えてきた。あえて言うなら『30代〜40代の女性を中心とするファミリー層含む全世代』。もはや世代ではくくれません」  見えてきたファンの姿は「新生姜クラスタ」とでも言うべき、新たな属性。その後押しがあったからこそ、“岩下”はミュージアムを含めた自在な展開を実現できた。社長自らもあらゆる場所で、積極的にユーザーと交わっていく。必ず成功する絶対のPR施策などない。だからこそ、届けるために粉をまく。諦めずにまき続ければ、いつかは風が吹く。“漬物カテゴリー”からの脱却をはかったときから、岩下食品は漬物会社という枠を飛び出した。もはや岩下食品は「新生姜」というアイテムを携えた総合エンターテインメント企業なのかもしれない。 <取材・文/畑菜穂子
We Love 岩下の新生姜― ツイッターから生まれたFANBOOK

今、「岩下の新生姜」が熱い!

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