NYも最低時給15ドルに。全米に拡大する最低時給引き上げは何をもたらしたか?

ニューヨーク市の決定を報じるNY TIMES

 ニューヨーク州がファストフード従業員らの最低賃金を時給15ドルに上げることに決めた。ニューヨーク市内では2018年までに、州内のその他の市町村では2021年半ばまでに達成する予定だという。同州のこれまでの最低8ドル75セントと比べると、約1.7倍もの大幅アップとなる。

 米国最大の都市を抱える同州の決定は大きなニュースとなったが、米国内ではすでにロサンゼルスが2020年までに最低賃金を時給9ドルから15ドルに上げることに決めるなど、最低時給15ドルへという動きが広がってきている。

 ここに至るまでには、約3年前から始まったファストフード従業員らの地道なデモ活動があった。彼らが初めてストライキを敢行したのは2012年のことだったが、最初は「最低賃金が時給15ドルなんてクレイジーだ」と批判され、失笑を買っていた。しかし「ファイト・フォー・15(時給15ドルを勝ち取るために戦う)」運動は全米に広がり、いつの間にか大きなムーブメントに成長。ある女性ファストフード店員は、働いても時給が安いために生活が苦しく、掛け持ちで別のファストフードチェーン店でも働き、あまりの過酷労働で流産したという悲劇をデモで切々と訴えた。大規模デモがファストフードチェーン店の本社や店舗などの前で繰り広げられ、店舗の営業ができなくなったり道路が通行不能となる騒ぎも起きた。主催者の発表によると、これまでデモが行われたのは全米226都市。かつてない規模で運動が広がり、時給15ドルの最低賃金実現へとこぎつけている。

 が、デモ活動の最中は、賛否両サイドでさまざまな意見が飛び交ったが、時給15ドルが実現した今、賛否両サイドにとって思わぬ顛末に辿りついている。

時給15ドルにした企業は滅びたか?

 ここで、ニューヨーク州に先行して最低時給15ドルに移行していた都市の例を見てみよう。

 まずはワシントン州のシアトル・タコマ国際空港があるシータックという街だ。シアトルといえば、昨年6月、向こう7年間で最低時給15ドルを実現することに決め、今春から11ドルになり、最低時給を徐々に上げてきているが、シータックは昨年1月からすでに接客業や交通産業に従事する人を対象に時給15ドルの賃金へと移行している

 当初、賃上げ反対派は、賃上げをすれば雇用者側が雇えなくなり、失業者が増えるとしてデモを批判する人もいた。

 しかし、実際はシータックでは最低賃金の引き上げが決まってから失業率は減少傾向にある。これを見れば、最低賃金の引き上げと雇用の創出は背反しないということがわかるだろう。

 ただ、これらの背景には、企業が最低賃金の上昇分を価格に転嫁しているということがある。

 シアトルでは、最低賃金引き上げに対応するため代金に15%のサーチャージを上乗せするレストランが増えてきているという。その代わり店側はアメリカの長年の慣習だったチップをもらわないようになってきているのだが、チップは店側の収入ではなくウエイターやウエイトレスが担当したテーブルの客から直接もらうものであったため、店員は時給が増えても逆に収入が減るという現象も出てきている。

 だがそれでも、価格上昇で客が減りファストフード店が滅んだかというとそんなこともない。

 しかし、最低賃金上昇肯定派にとっても不都合な事態も起きている。

福祉サービスを受けたいから労働時間を減らしてくれ

 一方、ファストフードチェーン店などでは時給が上がった代わりに勤務時間を減らして欲しいと申し出てくる従業員が出てきているという。理由は、収入が増えると低所得者向けの優遇制度が適用されなくなってしまうからだ。

 米国では、規定の収入を下回ると食費、子育て費、家賃などで補助が受けられる。例えば食費に関してはSNAPというプログラム(かつてはフード・スタンプと呼ばれていた)があり、パンやシリアル、野菜、果物、肉、魚などの日常の食料品に対して国が費用を補助してくれる。単身者の場合は月収1245ドル以下(約15万円)、4人家族世帯の場合は月収2552ドル(約31万円)以下の場合に補助を受けることができ、補助金額は1人につき平均月額125・35ドル(約1万5000円)になる。子育て費のプログラムでは、働いているかまたは職を探している親で子供が13歳以下といった条件を満たす低所得世帯に、多ければ月数百ドルの補助があり、これらすべての補助を受ければなかなかの収入になる。時給が上がって労働収入が上がるよりも労働時間を減らして各種の保護を受けて生活するという選択をする人たちも少なくないということのようだ。

 とはいえ、格差拡大は経済成長の妨げにすらなるというのは、OECDのリポートでも言われていることだ。もはやトリクルダウンなどは起こりえないとさえ言われている。そのため、格差改善の施策は不可欠で、このような“不具合”もまだ時給15ドル政策を一概に否定する要素とはいえないだろう。

 時給15ドル政策はまだ始まったばかりだ。今後、どのような影響が出てくるのか。引き続き注目していきたい。

参照:FOX NEWSThe Seattle Times

<取材・文/水次祥子>


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