日本でも人気急上昇中のAirbnb。今後、法的規制はどうなる?
今まさに爆発的普及の前夜にあると思われる「airbnb」(エアビーアンドビー)。自宅などを宿泊施設として提供したい個人(ホスト)と、いわゆるホテルとは異なる宿泊体験がしたい旅行者を仲介するこのカリフォルニア発祥のWEBサービスは、サービス開始当初から、世界各国で国内の法制度との整合性が問題視されて来た。日本においても旅館業法との整合性が問題視され、議論になっている。今回は、その法的な問題点を整理し、今後の雲行きを考えてみたい。
【1】「宿泊料を受けて、人を宿泊させる営業行為」は旅館業の許可が必要
昭和23年に制定された旅館業法は、「宿泊料を受けて、人を宿泊させる営業」をホテルや旅館とし、広く規制の対象としている。具体的には、旅館業法の適用がある場合には、同法に基づく営業許可を取得しなければならず、種々の規制に服する必要があるのだ。
Airbnbを利用してゲストに部屋を提供するホストは、まさに「宿泊料を受けて、人を宿泊させる」者であるので、これが「業(営業行為)として」行われた場合には、旅館業法が適用される。ここでの「業として」行うとは、「社会性をもって反復継続されるもの」と一般に言われる。airbnbが不特定多数のゲストを呼び込む仕組みをもっていることからすれば、この「営業性」も認められるおそれが高い。以上のように考えると、airbnbを使って空き部屋をゲストに貸す、という行為は旅館業法の営業許可がない限り、違法となる可能性が高いだろう。
【2】旅館業法に違反するとどうなるの? 営業許可は取得できないの?
無許可で旅館業を営業した場合、「6ヶ月以下の懲役又は3万円以下の罰金」に処せられると規定されている(同法9条)。刑事罰がある以上、規制を無視することはできないだろう。
一方、営業許可、具体的には簡易宿所(「民宿」などがこれに当たる。)の営業許可を取得するという解決方法はどうか。残念ながら、手軽に取得できるものではない。構造及び設備上の要件をクリアする必要がある上に、営業方法についての制約もついて回る。そもそも、ホストが常駐する一軒家の一部を貸し出すスタイルならともかく、ホストが不在中にマンション一室を貸し出す、というようなスタイルで、簡易宿所の営業許可を取得するのは限りなく困難だ。
【3】現状の規制はどうなっている?
ここまで紹介してきた法的問題点は、airbnbが日本でサービスを開始して以来、指摘され続けている(ちなみに、世界的にも日本と同種の規制が存在する国は多く、日本と同じ問題が議論されている)。しかし、airbnbに関して大規模な摘発が行われたという話は未だ出てきていない。現状は、「法的にはかなりグレーではあるが、大目に見られている」といったところか。
ただし、行政がこの態度をいつまで続けるかは不明である。2015年7月10日、福岡県議会において、県の担当官がairbnbなどを通じた個人による空室賃貸について「自宅の建物を活用する場合であっても、宿泊料とみなすことができる対価を得て人を宿泊させる業を営む者については、旅館業法の許可を取得する必要がある。」とし、無許可営業などの旅館業法違反事例については、「直ちに保健所による立ち入り検査を行い、厳正に対処する」との方針を示している。直接にはairbnbとは無関係だが、昨年には、無許可で不特定多数の者を有償で自宅に宿泊させたとして、足立区在住の英国人が旅館業法違反で逮捕されたという事例もあった。こうした現状を考えると今後、airbnb関係事案の見せしめ的な摘発がないとは限らない。大っぴらにやっていると当局に目をつけられる可能性もある点には留意する必要があるだろう。
【4】airbnbの法規制をめぐる今後の雲行きは?
airbnbを含む、個人宅を宿泊施設として利用させる流れに対しては、政府はオリンピックに向けて外国人観光客が増加することを見越し、一定程度規制を緩和することを表明している。具体的には、指定された「国際戦略特区」においては、一定の要件の下、旅館業法の適用が排除されるというのだ(国家戦略特別区域法第13条)。同法が委任する政令によれば、この特例は「宿泊期間が7日以上の場合」に認められるということである。短期滞在が殆どであるairbnb型の宿泊には適さないが、近い将来この宿泊日数が短縮されれば、事実上、「国際戦略特区」においてはairbnbのホストになることは適法ということになる可能性がある。
もっとも、規制緩和に反対する動きも根強い。強固に反発しているのは既存の旅館・ホテル業界である。当然といえば当然の対立であり、収束させるのはなかなか難しいだろう。では、今後はどうなるのか。
筆者としては現状の「法的にグレーのままとして、悪質又は危険なもの以外大目に見る」という状態が相当長く続くのではないかと考えている。airbnb型宿泊ゆえの深刻な火災事故が生じたり、同サービスを悪用した違法な性風俗、薬物犯罪等が蔓延すれば個別的に厳正な対応がなされるであろうが、airbnb宿泊の可能性を潰すような広範かつ網羅的な取締りは、国民の強い批判が予想されるにも係わらず、大義を見出し難いので行われないと考える。一方で、既存の宿泊業界の意向も無視できない上に、稚拙または悪質なホストと、そうではないホストを事前に区別することが難しい以上、そう簡単にairbnb型宿泊が立法等により合法化することもできない。そうなると、現状の取扱いをしばらく維持する外ないと予想しているからである。
【5】刑事事件になった場合airbnb自体の責任はどうなるの?
最後に、もしホストが旅館業法違反で違法である、となった場合、airbnb自体の責任はどうなるのか考えてみよう。
客観的行為としては「旅館業法違反の幇助」にあたる可能性がある。しかし、「幇助犯としての故意」が認められるか、そもそもairbnb内の誰について幇助犯の成立を考えるかは、また難しい問題だ。
ちなみに「ホストの責任」について、ヘルプセンターには以下のような記述がある。
「あなたがAirbnbのホストになるかを決める際、あなたの都市において適用される法律を理解することが重要です。以下に、あなたが最初に確認すべきリンクを記載します。この情報は法的助言ではなく、あなたが調査を行うための出発点に過ぎない点を、明確にご理解下さい。 Airbnbは、記載しているリンク先について独自の検証を行っておりませんので、ウェブサイトやガイドが政府機関により提供されるものであっても、各自において正確性をご確認下さい。また、あなたに対して法的拘束力を有する他の契約や規則(賃貸借契約や建物の内規など)についても理解し、これを遵守することが重要です。」
この表明によりairbnbが、上記法的責任を免れるかどうかという点も明らかでなく、興味は尽きない。いずれにしてもairbnbを副業のひとつにでも……と考えている読者におかれては、現状ではairbnbは法的にグレーであるという点をよく理解しておいていただきたい。 <高崎俊・弁護士>
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