photo by Nappiness (PublicDomain)
近年、マーケティングの世界で注目を集めている「共創」というキーワード。
この言葉は、アメリカでもっとも影響力のある戦略論の思想家として知られ、経営学の父と呼ばれたドラッカー以降の経営学の世界をリードしてきた経営学者である故・C.K.プラハラード氏が提唱した概念である。
かつての産業は企業が中心になって価値を想像し、優れた成果を上げてきた。しかし、現代では新たな価値創造のために新しい枠組みが必要となりつつある。その一つ「企業中心の価値創造」から「顧客や企業、サプライヤーなどさまざまな要素を巻き込んだ価値創造」へのパラダイムシフトが「共創」なのだ。
そしてその共創のチャンスをより広範な起業家のスタートアップに提供するのが「アクセラレーター」という仕組み。簡単に言えば、個々のスタートアップがメンターとなる企業との出資・対話によるサポートやその企業のリソースなどの提供を受けて、事業を爆発的に成長加速させるという仕組みだ。
起業においてよく比較されるのが「インキュベーター」だが、インキュベーターがその名の通り卵を孵すように、革新的なビジネスのアイデアが生み出されるのをサポートするのだとすれば、アクセラレーターは成長し始めた芽に効果的な水やりなどでより大きく育てるのが目的とでも言えるだろうか。
活発化する大手企業によるアクセラレータープログラム
そして、近年では、既存のジャンルですでに成長している大手企業がこうしたアクセラレーターを行うケースも増えている。
例えば、製菓の森永製菓が、ベンチャーや中小企業と足りないリソースを相互補完しあうことで食関連の新規事業の共創を目的とした「Morinaga アクセラレーター」や、学研グループが教育をキーワードにベンチャーや中小企業との新規事業共創を目的とした「学研アクセラレーター」、さらにかねてからLINEとコラボして、車との双方向コミュニケーションアプリ「Dribe+」を作ったり、イオンモールとコラボしてライフスタイル店舗「HUNT」を作っていた自動車買取販売の「ガリバーインターナショナル」の「Gulliver accelerator」である。
7月8日から開始されたばかりの「Gulliver accelerator」の例を見てみよう。
このプログラムは、ガリバーの「新しいクルマ社会」の実現というビジョンに共感し、共に新しい時代を担う「チーム」と「事業」を創り出す為の、事業開発プログラムだという。
プログラムの流れは、まずコンテスト形式で起業家から新サービスや新規事業のプランを募ることから始まる。その後、コンテストを通過したプランに対し、アクセラレータープログラムが適用されるというもの。
プログラムが適用されたチームには、ガリバー側からは、通常のアクセラレーター同様、メンターによるさまざまな支援や資金提供(総額100億円)のみならず、年間21万台の車両流通情報、470店以上のリアル店舗チャネル、サービスプラットフォームなど、ガリバーが有するさまざまな資産が開放されるという。
このプログラムは、個人も応募可能だし、どこかの企業に在籍していても応募可能だというので、ガリバーのリソースを使ったビジネスのアイデアが思いついた人などは最初の一歩を踏み出すのは格好のサポートになる可能性がある。
また、こうしたプログラムの存在は、ビジネスを成功させる上での不確実性を排除できる他、小規模チームでは超えることが困難だった障壁をクリアすることも容易にする。一方で、既存企業の側にとっては、自社内だけではまったく想定していなかった新しい価値観を創出することができるようになる。
今後、このような既存企業による共創型新規事業創出アクセラレータープログラムが増えていけば、起業へのハードルも下がることになり、より多くのイノベーションが生まれてくることになるはずだ。
<取材・文/HBO取材班>