ユーロが抱えるメンバー国間の経済格差問題とギリシャの出鱈目な行政監理

photo by MPD01605(CC BY-SA 2.0)

 ユーロ圏における国民ひとり当たりの所得平均を100とすると、一番高い国はルクセンブルグの263だ(2012年統計。以下同)。そして一番低い国はエストニアの71だ。ギリシャへの第3次支援金提供に反対したドイツは123、フィンランド115、オーストリア130だ。一方で、ギリシャの立場に理解を示したフランスは109、イタリア101となっている。問題のギリシャは75、ギリシャ危機の影響が次に波及するとされたポルトガルは76、スペインは96となっている(Losinversoresの統計参照)  ユーロ圏の各国の経済格差を調整するメカニズムが存在しないのがユーロが抱えている一番の問題である。しかも、ユーロという共同通貨は、加盟国の間で為替レートの調整も出来ない。ひとつの為替レートがユーロ加盟19カ国の間で適用されている。即ち、経済格差の異なった国が集まって、ひとつの通貨を流通させるというのは経済的に無理があるというのは経済の素人でも理解出来る。  その無茶をユーロ加盟国は実践しているのだ。しかも、国同士で国民のメンタリティも違う。よって、加盟国の間で利害の衝突も当然起きる。その調整はひとつの国の地方間で起きるそれよりも難しい。そして税率も国によって異なる。財政統合もまだ実現していない。国債についても、南欧ユーロ加盟国が抱えているドイツ国債に対する国債利回りスプレッドの格差は大きい。その負担を軽減する意味でも、ECBがユーロ共同債を発行すれば問題は解消される。しかし、それはドイツや北欧諸国の反対で発行出来ない状態が続いている。またユーロ加盟国間の経済格差が影響して、米ドルや日本円に比較してユーロ安になる傾向にある。それを利用して輸出を伸ばして来たのがドイツである。このメリットは生産性の低いユーロ加盟国では享受出来ない。  このような格差がある中で、ギリシャ危機が発生しているわけだ。勿論、問題の核心はギリシャにある。ひと言で言えば、ギリシャの政治行政と財政の監理は出鱈目であったということである。ギリシャで実行されていた粗雑な行政監理の内容をスペインの経済誌『Libre Mercado』が掲載した。その内容の一部を以下に要約してリストアップしたい。 * 2002年にユーロに加盟するのに当時の政府は米国のゴールドマンサックスの指導のもとに国家会計を粉飾した。 * 2009年に、それまでの財政赤字は3.7%と言っておきながら、実際には14%であったのが発覚。 * 国民ひとり当たりの所得がスペインよりも低いにも拘らず、最低給与はスペインよりも50%以上高かった。 * ある公立病院の玄関にある4つの植木鉢の手入れに45人の庭師が雇傭されていた。公的機関の1台の車に50人の運転手が給与を貰っていた。農林省の農地の写真のデジタル化に270人が雇傭者として給与を受けていた。 * 軍事費は長年GDPの3%前後を維持して来た。同規模のポルトガルはGDPの1.5%である。 * 公務員は労働人口の20%を占めていた。平均給与は1,350ユーロ(182,000円)。そして他にも色々な特別手当が支給されていた。年金にも特権あり。 * 職種によって女性は50才、男性は55才から定年出来た。61才で定年すると、給与の91%の年金が保障された。 * 国民の4人にひとりは税金を払った経験がない。 3分の2の医師も所得申告を12,000ユーロ(162万円)以下にして、税金を収めない。これ以上の額を申告すると納税の対象になるからだ。 * 賄賂は日常茶飯事。税務検査官が脱税方法を納税者に教えて、その代わり賄賂を貰うという例もあった。 * 多額の国債を発行して来た。 * 民営化出来る国営企業など政府は国の資産を抱え過ぎている。  以上の例からも理解されるように、ギリシャは国の歳入が常に不足する体質になっている。しかも輸出はGDPの僅か12%しか占めておらず、国際収支は常に輸入超過。  ユーロ圏に加盟していなければ、国家は破綻していた可能性がある。しかし、ユーロに加盟しているお陰で、これまで2010年に第1次支援金1,100億ユーロ(14兆8,500億円)、2012年に第2次支援金1,300億ユーロ(17兆5,500億円)の支援を受けて来た。そして、今回第3次支援金820-860億ユーロ(11兆円-11兆6,000億円)が提供されようとしている。これまでの債務の返済能力のないギリシャに更に追い貸しをして、返済出来ない債務の一部の返済を可能にさせようとするユーログループの配慮である。

ユーロ圏にとどまらなければ破綻。とどまれば経済回復は困難というギリシャ

 しかし、これではギリシャの問題の本質的な解決にはならないだろう。債務の減免をせねばギリシャ経済の回復は全く見込めない。しかも、ユーロ圏はドイツ主導の緊縮策が今後も続くから、返済能力を導き出す外貨を稼いでの経常利益は生み出すことは出来ない。  ギリシャの5年間のユーロ圏からの一時的な離脱を説いたドイツのショイブレ財務相は、ギリシャの今後の発展に非常に懐疑的で、しかもギリシャへの融資額が次第に膨らんで行くことに不安を強めている。スペイン紙「El Pais」によれば、7月16日のドイツのあるラジオインタビューの質問に答えて、〈「債務の減免なく、どのように(ギリシャが)危機を乗り越えるか誰にも分からない」〉と述べた。。彼はギリシャがユーロ圏に留まる限り、債務の減免は出来ないという考えで、ユーロ圏から離脱した時点でそれを行ないたいという姿勢だ。  ギリシャがGDPで成長を見せるには、ギリシャ独自の経済体質に合った金融財政策を実施するしか方法はない。ユーロ圏に留まっていただけでは、歳出削減と債務の返済に追われるだけだ。スペインの26%(現在22.5%)の失業率を誰も予測しなかった時に予測して的中させたサンティアゴ・ニーニョ教授は〈「現状のままでユーロ圏に残るのであれば、国民の生活は更に深刻となり、アフリカの極貧に相当する貧しさを迫られるようになる。また冷遇して強制的に離脱を迫ると、ロシアと中国に接近するようになる」〉と指摘している。(スペイン紙「El Ecnomista」より)。 <文/白石和幸 photo by MPD01605 on flickr (CC BY-SA 2.0)> しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなしていた。
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身
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