シャープ経営不振、それでも太陽電池にしがみつきたい理由とは
先月、主翼全面に太陽光パネルを搭載し、自然エネルギーのみで世界を航行する太陽光飛行機「ソーラーインパルス2」が名古屋空港に寄航したニュースを覚えている方も多いだろう。日本ではなかなか普及しないものの、この太陽光を使った発電の世界市場は、2020年には16兆円以上になるという。そして、この太陽光市場に挑み、苦しみ続ける日本企業がある。それが、シャープだ。
1963年から太陽電池事業を展開し、世界の太陽電池業界をリードしてきた。
そのシャープが今、経営危機に瀕している。業界のトップランナーだったはずのシャープが、なぜ、そのような事態に陥ってしまっただろうか? 今回はその原因を、太陽光パネル事業を中心に解説していきたいと思う。
去る5月に行われたシャープの記者会見。業績不振にあえぐシャープは資本金の減額や大幅な増資、人員整理などにより業務の効率化を図るなどの業務改善策を発表した。しかしそこには、現状で双子の赤字を生み続ける液晶、そして太陽光に関する事業整理はなく、会見の出席者からは疑問の声が多く上がった。
では、なぜこれらの赤字事業にシャープは固執し続けるのだろうか? それはシャープが以前行った、液晶パネル生産設備過剰投資へのツケが回ってきているためだ。
シャープは2012年頃までのいわゆる地デジ特需に湧き、かの有名な亀山工場を含めた自社の生産設備に対し、過剰なまでの投資と増産を行なった。しかしその後、国内需要の低下とアジアメーカーの台頭により、急激な赤字を抱え込んだ。そこで、液晶パネルの生産設備をほぼ流用できる太陽光パネル生産にそれらの設備を流用し、過剰投資による赤字補填を狙ったのだ。
そういった事情や、液晶のシャープというブランドイメージを維持するため、他の国内メーカーが共同で株式会社ジャパンディスプレイを立ち上げ、効率化を行う中、シャープはその流れには乗らなかった。その結果、赤字続きの液晶部門を補填するための太陽電池部門を維持せざるをえなくなったシャープは泥沼にはまっていくことになったわけだ。
シャープとしては泥沼にはまりつつも、世界シェアのランキングでいまトップ10に入っている太陽光事業を伸ばすことにより、他分野でのシェア奪還と業績回復を狙いたいという意向があるのだろう。しかし、その太陽光事業も液晶同様、海外製品に奪われつつあるのが現状だ。
たしかに2013年は、2012年から日本国内でスタートした固定価格買い取り制度による出荷数の急伸で世界三位まで上昇していたものの、これは国内需要の一時的な上昇による結果であり、恒久的なものではなかった。案の定、その後の落ち込みで世界シェアは中国勢に再度追われ、7位に低下してしまっている。
ここで最新の世界シェアを見てみよう。2011年から急激に出荷台数を伸ばし2014年に一位となった「Trina Solor」をはじめ、急伸する国内市場に支えられた中国メーカーは世界シェアのランキングの6位圏内をすべて独占している。そもそも中国はスマートフォンやパソコンのように、仕様の確定した製品を大量に安価で市場に供給する能力が高いのは周知の事実であるが、太陽光パネルにもそれは当てはまったようだ。
⇒【資料】はコチラ https://hbol.jp/?attachment_id=51236
60点の製品を半額で提供する中国製造業の性質にマッチングした形ともいえるが、いずれにしても中国の太陽光パネルは驚異的なスピードで出荷台数を伸ばし続けており、高付加価値化を得意とするいわゆる日本的製品では商品力が弱いと言わざるをえないようだ。
5月の記者会見時でも明言されなかったように、シャープは太陽光市場から手を引くつもりはないようだ。しかし、これらの状況に対して、シャープはいまだに具体的な対策を打ち出せていない。
すでに大量生産・大量供給の市場が完成した分野において、消費も弱ければ人件費も高い日本が、真逆のバックボーンを持つ中国を相手に戦うのは、あまりにも分が悪いのではないだろうか。
長らくシャープが使っていた「目の付けどころがシャープでしょ。」というキャッチコピーは、2010年に「目指してる、未来がちがう。」に変わった。オンリーワンの未来を目指すのは、素晴らしいことだ。しかし今のままでは、想像した未来とは違った未来が待っているような気がしてならない。
<文・図版/村野裕哉>
【村野裕哉】
PowerMacとWindows98で育った平成生まれのガジェッター。趣味の旅客機を眺めつつHTML/CSS/Javaなどを中途半端にかじって育つ。ブログなどでレビュー記事を執筆中。twitter : @anaji_murano
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