アナログレコード復活でバカ売れするプレーヤー、その人気の秘密
2015.07.20
アナログレコード人気の復活については何度かお伝えしてきたが、その復活に大きく貢献しているのが、手軽に買える低価格帯のレコードプレーヤーであると言っていいだろう。
レコードプレーヤーといえば、これまではレコードマニアのための高価な商品といったイメージが強かったが、ここ最近のアナログレコード人気に伴い、初心者が気軽にレコードを聴くのに充分な機能を備えた1万円弱のプレイヤーが登場している。
なかでも、“バカ売れ”と言ってもいいほど売れに売れているのが、ION AUDIO(アイオンオーティオ)の「Archive LP(アーカイブLP)」。発売と時期を同じくしてオープンして話題となった「HMV Record shop 渋谷」では、オープン1週間で100台以上が売れるなど、昨年8月の発売以来、方々で度々、品切れ状態が続出。生産が追いつかず、注文しても数か月待ちとなることもあったが、アマゾンのレコードプレーヤー売れ筋ランキングでも長期間、1位を記録し続けている。
このプレーヤーのバカ売れの要因は何なのかと言えば、まずは価格。実勢価格9980円と1万円を切るハイコストパフォーマンスにある。しかも、プレーヤーに2つのスピーカーが内蔵されているオールインワンタイプ。これさえあれば、すぐにレコードを聴くことができるという手軽さがウケている。
実際に内蔵スピーカーで鳴らしてみたが、チープな音がするという感じでもなく、気軽にレコードをちょい聞きするには充分だ。
もっと音にこだわるのであれば、アンプに繋いでお気に入りのスピーカーから鳴らせばイイ音で聴けるだけでなく、USB接続でパソコンやスマホに音源を取り込むことができるというのも、大きな魅力だ。
このアーカイブLPを製造・販売する楽器メーカー、inMusic Japanの青木隆社長は、こう語る。
「見た目はけっこうオモチャっぽいところもありますが、レコードをかけるとキッチリ音が出ます。どんな場所でも合う白木の天然木を使用したデザインも好評。ウチは楽器メーカーですので、そぎ落とすところはそぎ落とし、こだわるところには徹底的にこだわっています」
「純粋なオーディオメーカーではなく、楽器屋がプレーヤーを作ったらこうなったという製品なので、それがウケた理由かも」と青木氏は言うが、そのバカ売れぶりは発売1年が経とうとする今もなお、続いているようだ。
「数字は控えさせていただきますが、去年8月の発売以来、かなりの台数が売れています。想定していたよりも、二ケタ違う数字になっていますね。多くのメディアに取り上げていただいて話題になったこともあって、小さな規模のレコード店さんでも100台の発注があるといったことも。それも1週間で売れてしまう。なかには1店舗で500台の発注というところもあったりして、『ホントですか?』って聞き返したほどです。」
数か月待ちとなることもしばしばで、「アーカイブLPの他にも、防塵のフタ付きのMAX LPなど、現在3機種を投入しているのですが、いずれも欠品の状態が長く続いたりもしました。思い切って発注量を多くしたりもしているのですが、需要が月を追うごとに増えている感じで、追いつかない状態が続いているといった状況」だ。
青木氏によれば、レコードプレーヤーというのは手作りでしかできない部分が多く、生産量を劇的に増やすのが非常に難しいものなのだという。しかも、本体は中国製だが、心臓部であるレコード針とカートリッジの部分はこだわりの日本製であるため、なおさら急激な増産は難しいのだ。
「ほぼ絶滅しかけたレコード針とカートリッジを今でも細々と生産し続けてきた会社が群馬県にあります。長年、お付き合いのある会社でしたので、お願いしてみたんです。それで、中国製の本体に取付けてみたら、音が抜群に良くなった。それで、1万円弱だけれども、プレーヤーの心臓部であるレコード針とカートリッジは日本製にしようと決めました。とはいえ、想定を上回る発注量になってしまったので、これまで細々と生産してこられた会社で急激に生産量を増やすというのは非常に難しい。どう頑張っても追いつかないと言われたときには、目の前が真っ暗になりましたが……。当然、欠品状態が続いてしまい、心苦しかったですね」
今でも、中国から送られてきた本体を日本で全量検品して出荷するという、地道な作業を怠らないで続けているが、その作業が追いつかないといったこともしばしば。社長自らが倉庫で入り浸りということも珍しくなく、嬉しい悲鳴が続いている。
「発売当初、こんなに多くの人がアナログプレーヤーを欲しているんだということを知ってビックリしましたが、いまだにそのビックリが続いている感じですね。とはいえ、今、私どもの製品を買ってくださっているのは、40~50代のシニア層。この世代にある程度行き渡ったところで、売上げ台数はパッタリ止まって落ちることになりかねません」(青木氏)
そこで注目すべきは10~20代の若い層だと、青木氏は言う。
「レコード屋さんを回ってみると、最近は10~20代の若者が、けっこうレコードを買うようになってきたといった話をよく聞きます。お父さんがレコードを聴いているのを知って若い世代もアナログレコードの良さを知る。そういった若者が起点となって、同年代にアナログレコード文化がジワジワと拡がっていっているようです。今後はもっと頑張って、若者にアナログレコードの魅力を伝えていきたいと考えています」
今年の4月、青木氏が販売店と協力して、初心者のためのアナログレコードセミナーを有料で開催したところ、予想に反して多くの若者が集まった。
「2000円程度の有料セミナーで定員は35人。集まるのか心配していましたが、無事に定員に達しました。そのうち、3分の1程度が20代の女性で、これからレコードライフを始めたいので、もっとレコードのことを知りたいという方がほとんど。それこそ、針の置き方やレコードの持ち方から始めるといった感じでしたが(笑)」
欧米でアナログレコードが盛り上がっているのであれば、日本でも定着させたいという想いがシニア層だけでなく若者にも伝わりつつあり、「手応えを感じている」と言う青木氏。今後も、アナログレコードの魅力を伝えていけるようなイベントを続けていくつもりだという。
「レコードって、デジタルで聞く音楽とは違って、温かさがあると思うんですけど、それって“手で触る”からなんだと思うんです。レコードそのものがマテリアル感満載ですし、音楽っていうのは、やはり、触ることでさらに楽しくなるものだと思うんです。正直に言ってしまえば、レコードって、面倒臭いメディアではあるんですよね(笑)。でも、触感でも音楽を楽しみ、耳だけでなく体で音を受けて気持ち良くなれる感覚っていうのは、今の若者たちの多くが知らない世界だと思うんです。そんな、知らない魅力がたくさんあると思うので、ぜひ、楽しんでもらいたいですね」(青木氏)
近々、アイオンオーディオブランドで、新たに新商品2機種を投入する予定だが「ピュアなアナログレコードプレーヤーは、オーディオメーカーさんにお任せして、私どもは今後、Bluetooth対応スピーカーに繋げられるプレーヤーなど、アナログとデジタルが融合したハイコストパフォーマンスの製品をこれからも作り続けていこうと考えています」と、青木氏は言う。
どこまでアナログレコード文化の裾野を拡げていくことができるのか、バカ売れレコードプレーヤーの今後に注目だ。
<取材・文/國尾一樹> ハッシュタグ