海外で脚光を浴びた「タバタ式トレーニング」の生みの親、田畑泉博士が語る「解説書を出した理由」

App Storeでも「tabata」関連アプリがたくさん

 日本でも短期間減量に特化したプライベートジムや24時間営業のジムなど、フィットネス産業が盛り上がりつつある。  しかし、こうしたフィットネス産業やダイエット法、トレーニング法が語られるとき、しばしば「アメリカで流行っている」などという枕文句がつきものだった。ところが、そんな中、日本人の運動生理学者が書いた論文が海外のトレーニング関係者の目に留まり、一躍人気のトレーニングになったものがある。  それが、「タバタ・プロトコル」や「TABATA」などと呼ばれている「タバタ式トレーニング」である。

世界が先に注目した日本人研究者の論文

立命館大学教授・田畑泉氏

 この「タバタ式トレーニング」、元々は80~90年代の日本スピードスケート界でナショナルチームのヘッドコーチであった入澤孝一氏(現・高崎健康福祉大教授)が選手たちの強化に導入していたトレーニングである。このトレーニングを運動生理学的側面から分析し、効果の理論的実証を行い論文をまとめたのが田畑泉氏(現・立命館大学教授)であった。  トレーニング自体は「『20秒の高強度な運動+10秒休息』の組み合わせを8セット(論文では6~7セット)」というシンプルなものだが、これを週4日、6週続けると、持久力が約10%、瞬発力が約30%向上し、5000m走のタイムが50秒短縮した被験者もいたというほど効果が如実にあるものであった。しかし、当時の日本では清水宏保選手のようなスピードスケートのメダリストなどトップアスリートのトレーニングとして行われていただけだった。  そのオリンピック選手が実践していたトレーニングに、そのシンプルさと絶大な効果、理論の科学的正当性の点から注目したのがアメリカの筋トレマニアたちだった。2000年代前半に、彼らは田畑博士の論文をどこからか見つけ出し、BBSやチャットで「TABATA」についての情報を共有し拡散し始めた。それが2004年にアメリカの大手フィットネス雑誌『Men’s Fitness』などに紹介され、一気に広まったのだ。  現在は、イギリスではユニバーサルがDVD化し、160か所のジムがスタジオレッスンに導入している他、App Storeの「TABATA」検索ヒット数は388件にも及んでいる。また、世界で最も大きなフィットネス関係のコンベンションであるIDEAWorld Fitness Conventionでも、「TABATA」が多くの注目を集めたという。  そんな中、海外のネットで広まった「TABATA」の情報にはいくつかの誤解があり、逆輸入して広まった日本でもその誤解のほうが「TABATA」として広まってしまったことを危惧した田畑博士が、自らきちんと理論を説明したいと筆を執って、世界初となる「TABATA」の解説本となる『究極の科学的肉体改造メソッド タバタ式トレーニング』を上梓した。

ネットの情報では誤解も多かった「タバタ式」

「タバタ式トレーニングは約4分という短時間で持久力に関係する『有酸素性エネルギー供給系(有酸素系)』、瞬発的な力を発揮する際に重要な『無酸素性エネルギー供給系(無酸素系)』の両方を同時に向上させるトレーニングですが、この4分内でほぼ疲労困憊、ほぼ最大努力をすることが重要なハードなトレーニングです。いくつかのサイトや動画などで紹介されているエクササイズでは、タバタ式トレーニングの効果を得られるレベルに達しないものが多かったこともあり、一般の人でも手軽に出来る運動でタバタ式トレーニングの負荷レベルに達することができるエクササイズを紹介し、さらにその理論をきちんとお伝えしたいと思ったのです」  世の中の「●分で痩せる!」「●●だけで引き締まる」などというコピー先行のダイエット・トレーニング本とは異なり、科学的理論に基づいた運動法なのである。 「正直、本にはかなり専門的な内容も入れてしまいました。また、一般には売るために大切そうな『痩せる』などという表現も避けました。実際に田畑式トレーニングを実践して結果的に体重が落ちた人はいますが、単純に運動の消費カロリーで比較すればタバタ式トレーニングはたったの4分なので運動の消費カロリーもそう多くはありませんし、脂肪が燃焼したとしてもそう多くはありません。そのため『タバタ式トレーニングで脂肪が減る』というエビデンスはないため、そうした表現はしませんでした。編集者は困っていましたが(笑)」  もちろん、最大酸素摂取量や最大酸素借が高まった結果、身体能力が向上し、日々の生活がアクティブになったり代謝が向上することで副次的に痩せ易くなるのは事実で、週2~3回、8週間タバタ式を実践した大学職員が実践終了後半年して4kg減量したことや、総合格闘家の川尻達也選手もタバタ式で筋肉量を落とさずに身体を仕上げて、先日のUFCベルリン大会でも見事な勝利を収めたという事例は幾つもある。

敢えて「痩せる!」などと煽らなかった理由

 なぜ、敢えて難解な理論も本に入れたのか、そしてダイエット向けなどの派手なアピールをしなかったのか? それは田畑博士の真摯な思いがある。 「本来のタバタ式トレーニングは“キツイ”からこそ意味があります。アスリートにとっては最大限の力で行えば記録の向上などに結びつくでしょう。しかし、体力の低い人も強度を低くすれば成人病予防にも役立ちますし、被災地などで運動できない児童の体力維持にも役立ちます。さらにウォームアップとクールダウンを入れても30分足らずで健康増進に効果があるトレーニングは日頃運動不足なビジネスマンにもうってつけなトレーニングなのです。こうして、日本発のトレーニングが世界のいろいろな環境にいる人たちの健康づくりに役立てば、これ以上ないことです。そのためにもタバタ式トレーニングについての“真の”知識が広まって欲しいと思っています」 <取材・文/HBO取材班 撮影/井上周邦>
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