ギリシャ処置はいまだ応急処置。茨の道は続く

ギリシャ 7月11日から延べ17時間の協議の末に、13日午前8時過ぎに「合意した」との通知がベルギーのシャルル・ミシェル首相のツイッターで最初に公にされた。第3次支援金は820億-860億ユーロ(11兆700億円-11兆6,100億円)とした。しかし、ECBへの今月20日の返済や8月末までに120億ユーロ(1兆6,200億円)がつなぎ融資として必要とトロイカでは見ている。48時間以内のギリシャ議会での今回の合意への承認を待ってこの具体化が決められる。  ユーロ圏財務相会合で意見がまとまらなかった一番の要因は、ユーロ加盟国の間にあるギリシャ政府への不信であった。その中でも、フィンランドのストゥッブ財務相は「ギリシャへの支援延長の打ち切り」を明確に表明していた。  ユーロ圏の間に蔓延るギリシャに対する強い不信感は、ギリシャがユーロに加盟する為に国家会計を粉飾した前科があることに端を発している。  2009年のギリシャ危機も同様だ。これは、当時誕生した新政権が、それまで前政権が3.7%と公表していた財政赤字が、実際には14%であったと発表したことに起因している。  スペイン電子紙『Libre Mercado』は、今年1月にギリシャ政治の「10の恥辱」としてギリシャ政治行政のいい加減さを具体的に取り上げた。  曰く、公務員総数が労働人口のほぼ20%を占め、平均給与も1,350ユーロと民間企業の給与に比較して遥かに高いことや色々な優遇措置が享受出来ること。/国民の間での脱税は日常茶飯事であること。/脱税による政府の毎年の歳入洩れは150-200億ユーロ(2兆250億-2兆7,000億円)にも及ぶこと。/賄賂は年間で8億ユーロ(1,080億円)にも上ること……などなどだ。  さらにいえば、2010-2012年に資金洗浄で外国に持ち出された資金は800億ユーロ(10 兆8,000億円)、2014年の軍事費はGDP比で2.3%。戦車の数はドイツ、フランス、イタリアを合わせた台数よりも多い(人口比とGDPで同規模のポルトガルの軍事費は1.5%)。そういう国なのである。

ひとまず合意。しかし拭えぬ不信感

 以上のような行政監理そのものに問題が発覚しているギリシャで、チプラス政権がトロイカの改革案の要求通りに実行出来るのか、強い疑念をユーロ圏の間でもっているのだ。  ギリシャがトロイカに提出した最終改革案は具体的にそれをいつ実行に移すのか不明確な点が多々あるとして、トロイカが要求したのは48時間以内の法制化だ。そしてそれを直ぐに適用化させようというものだ。すなわち、7月15日までにギリシャ議会で今回の合意内容が承認されることを要求したわけである。  長年ギリシャの政権を担い、現在野党に回っている2大政党の新民主主義党(ND)と全ギリシャ社会主義運動党(PASOK)は、今回の改革案に賛成票を投ずることを早くも表明している。この2大政党の支持がある限り、議会での承認は確実だ。  しかし、問題はシリザの党内だ。この改革案に反対を表明している議員が20人近くいるのだ。そして13議席をもってチプラス政権に加わっているカメノス国防大臣が率いる独立ギリシャ人(ANEL)が反対を表明する可能性があるという。  先の国民投票では、トロイカ改革案に国民が61%が反対したが、『エルコンフィデンシャル』紙によれば、国民はもうギリシャの要求は通らないと諦めの心境にあるという。(ただ、今もシリザへの支持が38.5%と一番高く、野党第1党の新民主主義党は19.1%の支持しかなく、両政党の支持差は依然20%の開きがある)。  いずれにしても、今回の合意は一時的な応急処置だ。  今回の合意によって提供される支援金はギリシャが抱えている負債を返済する為のもので、経済が成長していない限り、また次の支援金が必要となるのである。  経済系ブログメディア『Nada es Gratis』は<仮にギリシャが毎年GDP4%で成長したとして、負債の金利3%(2006-2014年の平均金利3.9%)、財政黒字2.9%を達成したとしても、ユーロ加盟の本来の規定である負債がGDP比60%にまで戻るには30年の歳月を要すると予測されている>としている。  ギリシャが現在抱えている負債はGDP比177%だ。ギリシャの現在の経済体制では毎年GDP4%の成長を達成すること自体も無理がある。第3次支援が達成されても、ユーロという共同通貨の中ではギリシャの経済発展に必要な金融財政策の適用は不可能なのだ。現在のドイツ主導の緊縮策が解除されない限り、ギリシャはこれからも茨の道を歩まねばならない運命にある。 <文/白石和幸> しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなす。
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身
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