杉本彩さん「今の目標は動物の命を軽んじる悪徳繁殖業者を根絶すること」
女優、タレントとしては言うに及ばず、近年では実業家としての顔も併せ持つ杉本彩さんが、数ある自身のアクティビティの中でも「私の生きる目的」と明言し、20年以上にも渡って“動物愛護活動”を続けていることを知っている人も多いだろう。昨年2月には、活動をより推し進めるべく『公益財団法人 動物環境・福祉協会Eva(エヴァ)』を設立。自ら理事長の任に身を置き陣頭指揮を執ることはもちろん、全国津々浦々でのイベント開催や、専門家を招いての講演会、さらには超党派の動物愛護議連に参加し意見を戦わせるなど、団体設立から1年以上が過ぎ、ますます精力的な活動を展開している。
「めぐろパーシモンホール」(東京都目黒区)で先月開催されたチャリティー・イベント『Happyあにまるフェスタinめぐろ』でも、海外の動物保護施設などに材を採ったドキュメンタリー映画「みんな生きている~飼い主のいない猫と暮らして」(泉悦子監督)の上映後、朗読会や地域猫トラブル模擬調停にも参加し、動物愛護を訴える杉本さんの姿がひと際目を引いた。
「正直、まだまだ手探りの感もあり試行錯誤の段階ですが、継続して催すことで、緩やかにではあるが私と同じ思いを抱きながら活動されている方々が集い始めているという実感を強く持っています。イベントを通じて、自分自身に不足している知識や今まで気付かなかったアプローチの方法などを情報交換できるというメリットも非常に大きい。加えて、普段あまり動物愛護に馴染みのない方、興味はあるがどう手を差し伸べてよいのかわからず足踏みをしている方などに対してアピールし、活動に参加して頂く契機を提供する場として、今後も地道に続けていきたい」
バラエティ番組で見る朗らかなイメージとは違い、杉本さんが放つ真っすぐな言葉には凄みすらあった。恐らく、これまでの活動で目にしてきた、直視することも憚られる現実があるからなのだろう。
昨年2014年時点での国内の犬猫飼育数は犬1034万頭、猫995万頭(一般社団法人ペットフード協会調べ)と2000万頭以上にも及び、過去には例を見ないほどの隆盛を示しているが、反面、年々減少傾向にあるとはいえ、現在でも年間約17万6千頭もの犬猫が動物保護センターに引き取られ、うち12万8千頭(2013年時点、環境省統計)の犬猫が殺処分されている。このような現状から、動物愛護が盛んなドイツやイギリスなどの諸外国からは“ペット後進国”と揶揄されることもしばしばだ。昨年6月には国もやっとその重い腰を上げ、環境省が「犬猫殺処分ゼロを目指す行動計画」を発表。犬猫の広域譲渡や野良猫対策などのモデル事業を全国12都道県13自治体でスタートさせ、その対策に乗り出している。杉本さん自身、この取り組みには大いに賛同しているようだが、一方で「譲渡や保護は確かに重要だし推進すべき活動だが、そのような悲惨な犬猫の状況を生み出している根っこの部分、つまり『悪徳繁殖業者』の問題をクリアにすることが急務」と語気を強める。
「命ある動物を“カネになる商品”としてモノ同然に扱い、手当たり次第に繁殖させては無責任に売り飛ばし、売れ残ったらゴミとして処分する……。感情論を抜きにして、それが悪徳ブリーダーの紛れもない実態です。現在、全国20か所で年間40万頭もの犬猫がオークション(犬猫競り市場)経由で流通し、ブリーダーは産まれた子の30%を通信販売、繁殖用、欠陥品(病気などを理由に殺処分される犬猫)に充て、残り70%を競売に出すと言われています。要するに、この供給の“蛇口”を閉めない限り根本的な解決には繋がらないということ。また、我々自身もペットショップに陳列されている仔猫などを眺めて、ただ『カワイイ~』などと宣い安易に購入するのではなく、このような動物たちがどのような形で生産、流通されているのかということにもっと想像を巡らす必要がある。その意味で、売る側に対する罰則強化はもちろん、買う側の意識変革を促していくことも必要不可欠」
現在、2013年9月に施行された改正動物愛護管理法により「終生飼養(飼い主が最期まで飼育する責務)」が義務付けられ、その責務に反する場合は行政施設での引き取り拒否が明文化。また、生後56日を経過しない犬猫の販売・引き渡し・展示を禁止する「8週齢規制」が施行されたが、この8週齢規制にはトリックがあり、条文では56日と明記されているものの、「施行後3年間(2016年8月31日まで)は45日、それ以降は別に法律で定めるまでの間は49日」という条件付き。つまり、施行後3年経ったら再検討するという一見体裁のよい文章だが、実際には規制が機能するかどうかはわからない”骨抜き”に等しい法制化だという。結果、悪徳業者による蛮行は依然、法の手を逃れていることは明白であり、すでに欧米の動物愛護先進国で実施され、動物虐待や飼育放棄を重犯罪として取り締まる「アニマルポリス」の設置など、さらなる法整備が急がれるが、そこには水面下での大きな“障壁”が存在すると杉本さんは話す。
「動物愛護管理法の改正は、環境省管轄の『中央環境審議会・動物愛護部会』という組織で審議されるのですが、大学教授や日本獣医師会などの委員に交じって、動物販売業に深く関わる団体の人間が少なからずメンバーとして名を連ねているんです。敢えて、ここでは詳細な名称は出しませんが、本来、特定の利害に偏らずに公平、公正であるはずの国の組織が、自らの利益を守りたい人間たちの抵抗に抗えず、抜本的な改正に踏み切れないでいることは容易に想像がつく。部会長以外は臨時委員なわけで、もっと幅広い人選を行えるはずだし、行わなければ絶対にダメ。その意味でも、動物愛護促進の遅延を招く元凶とも言うべきこの審議会の実態をより掘り下げて、広く問題提起していきたいと考えています」
活動の一番の原動力は「動物の命も、人の命と何ひとつ変わらない尊いもの」という思いだというが、「地道な活動と並行する形で、より多くの方々に情報発信するため、インパクトの強いイベントも現在企画中」と話すなど、今後の活動にもさらなる意欲を見せる杉本さん。“ペット大国”とまで呼ばれるに至った現在の日本において、動物環境全般を取り巻く諸問題に注視し、改善を促すべく行動を起こすことは、我々国民ひとりひとりの責務と言えるのではないだろうか。 <取材・文・撮影/藤原哲平>
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