迫る「D-Day」を前に、欧州で飛び交う「ギリシャでクーデター」の噂

photo by Trine Juel(CC BY 2.0)

 ジオポリティクスにおいて、米国はギリシャがロシアと中国の影響下に入ることは断固許せないという姿勢を堅持している。すでに欧州の一部のネットメディアなどでは、米国は水面下でユーロ圏のリーダー国であるドイツの協力を仰いでおり、ロシアに突如併合されたクリミアの二の舞を踏むことのないように、NATOは必要とあらばギリシャでクーデターを起こす構えであるというという億測まで飛び交っている。

噂の発端はビクトリア・ヌーランドのアテネ訪問

 その憶測の根拠になっているのは3月17日付英国紙『The Guadian』が、<米国のビクトリア・ヌーランド国務次官補が3月にアテネを訪問した>ことを報じ、<ギリシャのユーロ債務危機がジオポリティクス上の脅威に繋がることに、米国は強い不安を募らせている><ギリシャがロシアの影響下に入ってしまうと、中東の原理主義者の増加の前に、グローバルな安全保障面において、NATOの南東地域が弱体化する恐れがある>と報じたことに寄与する。ビクトリア・ヌーランドがウクライナ紛争の仕掛人的な存在であること。彼女が動く所には常に米国外交で隠された動きがあるというのは公然となっているというのだ。  米国がギリシャのユーロ離脱を懸念するのは、まず第一にギリシャがロシアに接近し、NATO内の分裂が助長されることを危惧していることだ。さらに、ギリシャがNATOから離れれば、その次はトルコだという不安があるからだ。  というのも、トルコは長年EU加盟を望んでいるが、その希望が今も実現していない。その一方で、トルコとロシアは天然ガスパイプラインの建設に既に合意しており、EUがロシアに制裁を加えたあとも、トルコはEUに代わってロシアに農作物や果物などを輸出しており、両国の貿易取引は拡大している。またトルコのエルドアン大統領は上海協力機構への関心を表明したこともある。またトルコはイランからの石油と天然ガスの輸入にドルを使わないことでも合意しているのである。

「クーデター」説はどこまで可能性があるのか?

 これまでギリシャとクーデターは無縁ではない。  ギリシャは1946年から49年まで内戦が続いた。しかし、その後、総選挙の度に左派系政党が躍進し、ゲオルギオス・パパンドレウ首相が率いる民主左派連合が1964年の総選挙で勝利して、政治犯となっていた共産党員を釈放し、東欧諸国との関係改善を始めた。ギリシャが共産圏に接近することを心良く思わない米国はCIAを通して軍部の中堅将校らと画策して1967年にクーデターを起こした。この時にコンスタンディノス2世国王は国外に亡命し、パパンドレウ首相は自宅軟禁となった。そして、ギリシャの軍事政権は1973年まで続いていた。  ごく最近では、2011年にゲオルギオス。アンドレアス・パパンドレウ元首相(当時首相。前出のパパンドレウ首相の孫)がトロイカからの支援金の受け入れの是非を問う国民投票の実施を計画した。野党が受け入れに同意したので、その実施は見送られたが、これが動機となってパパンドレウ首相はユーロ圏からの圧力で辞任した。その時に、軍の統合参謀本部長だったフラグコック将軍はクーデターの実施を計画していたという噂が広がり解任されたという経緯がある。  実は、ギリシャでは今もなお軍部は政府への影響力を持っている。ギリシャでの軍事費が国の規模に比較して高いのはそのためだ。シリザという急進左派政権が国防大臣のポストに保守政党のギリシャ独立人党(ANEL)の党首カメノス氏を任命したのも、同氏が軍部と親密な関係をもっているからだ。  いずれにしても、7月12日のユーロ圏首脳会議でギリシャの運命が決まる。NATOにとって、ギリシャは北アフリカ、中東、東欧における防衛と安全上の重要な鍵を握っている。さまざまなきな臭い噂は、ギリシャという国が持つ、ジオポリティクスにおける重要性ゆえのものなのである。 <文/白石和幸 photo by Trine Juel on flickr(CC BY 2.0)> しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなす。
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身
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