ヘイトスピーカーを高座に呼ぶ落語家・桂福若の背後にある「生長の家本流運動」――シリーズ【草の根保守の蠢動 第11回】

 読者の理解を妨げぬため、本来であれば、塚田穂高氏との対談記事の続きを掲出してから、次のレポートに進む予定であった。  しかし看過しえないニュースが飛び込んできた。  大阪・天馬神宮の境内にある大阪落語唯一の寄席「天馬天神繁昌亭」が、中曽千鶴子をゲストに呼ぶイベントを8月に予定しているというのだ。  ヘイトスピーチやレイシズム問題に関心がある人には説明するまでもなかろうが、中曽千鶴子という人物は「京都朝鮮学校事件に匹敵する最悪のヘイトクライム」とさえいわれる「徳島教組襲撃事件」の首謀者であり、2007年前後から醜悪さの度合いを増した関西の「行動する保守」運動の首謀者の一人であった。その後彼女は、本件につき刑事・民事の両面で訴追されている。  もし彼女が、裁判所の決定に服し、前非を悔い改め、しかるのちに政治活動等を再開するのなら別だ。しかし、彼女は一切反省していない。いまだに、以前とかわらぬヘイトスピーカーであり、徳島教組襲撃事件で見せたような暴力的な活動も辞さない人物だ。  さらに、今回の繁昌亭の「本当にあった日本の美しい噺」なるイベントは、主催者である桂福若にも問題がある。  桂福若は、最近、関西でヘイトスピーチ活動を大規模に展開している「尊皇隊」なる団体に所属している。話術で渡世する噺家が人の心を踏みにじるヘイトスピーチ団体に所属するなど言語道断だ。  そして、本連載として見逃せないのは、桂福若の「生長の家本流運動」との関わりだ

日本会議の中核の中核と

 これまでもこの連載では、日本会議の事務局が「日本青年協議会」という右翼団体であることは重ねてお伝えしてきた。また、「日本青年協議会」は70年安保のころに誕生した民族派学生運動に源流を持ち、これら民族派学生運動の担い手は、新興宗教・生長の家の学生信者たちであることもお伝えした通りだ。  2015年現在、「生長の家」は連載第4回でもお伝えしたように、左傾化ともいわれる路線変更ののち、政治や社会運動との関わりを一切絶っている。  しかし、教団のこの路線変更に我慢ならず、創始者・谷口雅春が説いたウルトラナショナリズム路線を堅持しようとする「生長の家本流運動」なる運動が存在する。この「生長の家本流運動」における最大の組織が、「谷口雅春先生を学ぶ会」と呼ばれる組織だ。  本連載の最終目標の一つは、この「谷口雅春先生を学ぶ会」と「日本青年協議会」のつながりや、80年代以降の右傾化言説に「生長の家原理主義者たち」がいかに関わってきたかを明らかにすることにある。  そのため、今後も「生長の家本流運動」および「谷口雅春先生を学ぶ会」についてはこの連載でもなんども触れることになろう。  しかしいまは、桂福若だ。  もろもろ言葉を尽くすより、まずは、昨年4月に開催された「谷口雅春先生を学ぶ会」第2回全国大会で配られたパンフレットの現物をご覧いただこう。 ⇒【画像】はコチラ https://hbol.jp/?attachment_id=49717  百地章の講演のあと、昼食休憩と聖歌合唱(賛美歌合唱のようなもの)を挟んで、午後の部第一番目のスピーカーが、桂福若であることがおわかりいただけるだろう。  さらに、先ほど掲出した「本当にあった日本の美しい噺」なるイベントのチラシ左側をご覧いただきたい。 ⇒【画像】はコチラ https://hbol.jp/?attachment_id=49700 「新教育者連盟」なる団体の名前が掲載されていることがおわかりいただけるだろうか。この「新教育者連盟」は、財団法人であるものの、「谷口雅春『生命の実相哲学』に基づく教育の原理と方法」を普及することを活動目的としている「生長の家本流運動」の一翼を担う団体だ。 「谷口雅春先生を学ぶ会」第2回全国大会での講演・自身が主催するイベントでの「新教育者連盟」からのバックアップ……。これらをみれば、桂福若が、「生長の家本流運動」に属する人物であることは明らかだ。  そしてこの点を踏まえれば、噺家としてほぼ無名といっていい彼が、日本会議事業センターから「誰でもわかる憲法の話 落語編」なるものを出していることも、あちこちに引っ張られ、その活動の内容が新聞で報道されることも、自身のイベントをプロデュースする集客力を持つに至ることも、何の不思議もなくご理解いただけるだろう。  桂福若の事例は、彼の噺家としての実力もあり関西ローカルの極めて小さな話ではある。しかし彼が世間に出てくるパターンは、いわゆる「保守論壇人」と呼ばれる人々が学会などの専門分野で取り立てて実績がないにもかかわらず突如論壇での知名度があがるという、あのメカニズムと全く同じだ。  今後も本連載では、このメカニズムを実例に則して解明していく。  ご期待いただきたい。 <文/菅野完(Twitter ID:@noiehoie)>
日本会議の研究

「右傾化」の淵源はどこなのか?「日本会議」とは何なのか?

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