最低賃金値上げは福音か亡国か? 各紙の社説を読み比べ

オバタカズユキ
新聞 これまで全国平均で時給764円だった最低賃金を780円に引き上げる、と厚生労働省の審議会が決定。この報を受けて大手新聞が一斉に社説で見解表明したが、「社説なんてどこも一緒」と思いきや、意外なほど言い分が異なり、各紙のカラーがよく表れていた。

 試しにリンク先を読んでほしいのだけれど、もっとも戦闘的な批判の筆をふるったのは東京(中日)新聞の社説だ。今回の最低賃金の引き上げ幅は「働いても貧困から抜け出せない人たちの生活向上には程遠い」と弱者の味方モードでバッサリである。

 毎日新聞朝日新聞も被雇用者の立場からの見方を示したが、論点は「賃金格差の拡大」に向けた。最低賃金の低い地方の引き上げ幅が小さいので、大都市との差がより開いてしまうという。「地方審議会は働く人が地方から流出しないような賃金水準を目指すべきだ」(毎日)などと良識の市民派っぽく主張した。

 対して、雇用者の立場から注文をつけたのは、産経新聞読売新聞。両紙とも、今回の「大幅」引き上げを歓迎した上で、「心配なのは、最低賃金の引き上げが、中小・零細企業の経営を圧迫しないかという点だ」(読売)とザ・ニッポンの保守という感じで眉をひそめた。

 政府による最低賃金の引き上げ自体を疑うのは、日本経済新聞だ。「企業の生産性の伸び以上に賃金を上げることになれば、企業の競争力を低下させ雇用や地域経済に悪影響を及ぼしかねない」とドライに苦言を呈した。

 さて、どうだろう。たまには社説を読み比べるのも……頭がこんがらがるだけ?

 ならば、「最低賃金を2倍にすると何が起こるか」と題するコラムはいかがだろう。匿名ブロガーが「さあ、新聞記者にはできないくらい突飛なことを書こう」という一文から書き起こして、「ハフィントン・ポスト」などに転載されたものだ。

「最低賃金を時給1,700円に引き上げて、アルバイトにも社会保険や有給休暇を徹底し、サービス残業は完全禁止、ちょっとした違反でも厳しく取り締まる……。そんな世の中になったら、いったい何が起こるだろう」?

 結果、「地方ではモノや仕事がなくなり、人口が都市部に集約される。行財政が効率化され、ファスト風土化が解消される。さらに農地の整理が進み、大規模で生産性の高い農業生産が可能になる。また都市部では小売業、飲食業、運輸業の自動化が進む」のだそうだ。

 最低賃金をどーんと引き上げたら最終的にユートピアがやってくるらしい。この妄想ぶりはなかなかである。現実の社会問題に「風が吹けば桶屋が儲かる」式のこじつけ話をもってくるな、とマジメな人は怒るかもしれない。でも、こういう思考実験には、16円ぽっちの引き上げで議論が紛糾する社説の世界に疲れた頭を、もみほぐす力があると思う。

<取材・文/オバタカズユキ>

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