バルト三国のソ連離脱は違法? ロシア検察が捜査へ

illustrated by Aoineko from wikimedia commons(CC BY-SA 3.0)

 ウクライナ危機に端を発するロシアと西側諸国との対立は依然解消されておらず、それどころか対立構造の固定化さえ招きそうな状況に陥っている。

 こうしたなかで、ロシアの独立系通信社インターファックスが興味深いニュースを伝えた。

 ロシアの最高検察庁が、バルト三国がソ連から離脱したことの合法性を調査し始めたというのである。

バルト三国のソ連離脱とは

 バルト海に面したエストニア、ラトビア、リトアニアの三国をまとめてバルト三国という。いずれも旧ソ連の構成国だが、ソ連の建国当時からのことではなく、第二次世界大戦中にドイツ軍を駆逐したソ連軍に占領され、そのままソ連へと編入された。

 このような歴史的経緯から、バルト三国にはソ連編入が不本意なもの、不法なものという意識が強く残った。この結果、1980年代末に東欧の社会主義国で共産主義体制が動揺し始めると、バルト三国でもこれに呼応してソ連からの独立運動が見られるようになった。

 これに対してソ連は軍を送り込んで鎮圧を図ったものの、民族主義を余計に燃え上がらせる結果となり、1991年、相次いでソ連からの離脱を宣言した。

 今回、焦点になっているのは、この離脱が当時のソ連憲法に照らして合法なものであったかどうか、ということになる。

検察庁による調査

 有力紙モスコフスキー・コムソモーレッツによると、調査請求を行ったのは、与党「統一ロシア」に所属するアントン・ロマーノフ下院議員とエフゲニー・フョードロフ下院議員で、バルト三国の離脱の結果、ソ連から「戦略的に重要な地域が切り離され、港と海域が失われ、国家の統一的な防衛空間の分断をもたらし、バルト三国との経済的結びつきが毀損された」と当時の決定を非難しているという。

 インターファックスによれば、彼らが問題にしているのは、独立の決定を行った機関が憲法で認められたものではない、という点である。

 当時、バルト三国で独立を承認したのは、ソ連の最高意思決定機関である最高会議ではなく、ゴルバチョフ大統領の改革によって1991年9月に設立された国家会議(ソ連大統領及びソ連構成諸国の指導者から成る)であったが、ソ連崩壊間際に設立されたものであるため、憲法にその存在が規定されていなかった。したがって、この決定は当時のソ連憲法に照らして無効である、という理屈である。

 これに似たケースとして、ロシア最高検察庁は最近、ソ連時代のクリミア半島移管が憲法違反であったという調査結果を出している。この調査は、野党「公正ロシア」のミローノフ党首の議員請求に基づいて行われた。

 ウクライナ危機で一躍注目を集めた同半島は、第二次世界大戦後の1954年、当時のフルシチョフ書記長の決定で(ソ連内の)ロシアから(同じくソ連内の)ウクライナへと帰属が変更された。当時は同じソ連国内であるから大した問題ではなかったが、ソ連が崩壊してみると、ロシアにとってクリミアは「外国」ということになってしまった。

 そこでロシア側が持ち出したのが、そもそもクリミアのウクライナへの移管自体がソ連憲法に定める手続きを踏んでおらず(これは事実で、フルシチョフの独断であったとされる)、したがって同半島をロシアに併合することは正統であるという理屈だった。最高検察庁の調査結果も、この理屈を踏襲している。

 こうした理屈に基づけば、たしかにソ連の最高意思決定機関の決定によらないバルト三国のソ連離脱は「非合法」という結論になる可能性は高く、インターファックスに談話を寄せた関係筋もそのように予測している。

「パンドラの箱」になるか?

 ただ、バルト三国のソ連離脱まで同じ論法で判断することは、「パンドラの箱」を開けることになりかねない。

 というのも、その理屈を持ち出せば、ロシアが正式に国家承認して外交関係を結んでいるバルト三国の存立そのものを否定することになりかねない上、ロシア帝国の憲法に基づかずして設立されたソ連までも正統性がなかった、ということになるためだ(さらに言えば、ソ連自体に正統性がないのだから、バルト三国の併合に正統性がなく、したがって離脱は違法ではないとも反論しうる)。もっと言えば、同様に革命によって成立したその他の国々の正統性にまで話が及ぶことにも論理的にはなる。

 このため、インターファックスに情報を寄せた関係筋は「最高検察庁の返答はクリミア半島の移管に関するものより、もっと練られたものとなるだろう」としている。要するに、ソ連の設立そのものには疑問を呈しない形でバルト三国の離脱に違法性を認めるような理屈を構築する必要がある、ということのようだ。

 とはいえ、これには相当の困難が伴うと見られ、最高検察庁の返答がいかなるものとなるのか、注目される。

<文/小泉悠(未来工学研究所)>

こいずみゆう●早稲田大学大学院修了後、ロシア科学アカデミー世界経済国際関係研究所客員研究などを経て、現在はシンクタンク研究員。Yahoo!ニュース個人(http://bylines.news.yahoo.co.jp/koizumiyu/)や『軍事研究』誌でもロシアの軍事情勢についての記事を毎号執筆。個人サイトWorld Security Intelligence(http://wsintell.org/top/)を運営


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