中年はプライドを捨てて会社にしがみつけ。さもなければブラックバイトが待っている
2015.07.13
安く使えるものは安く使いたい――一般的な経営の発想である。まして、体力のない企業ならば、効率化の名のもとにリストラをする。かくして、派遣市場に吐き出される中高年……そこは奴隷労働の現場だった。東大卒、元アナウンサーが体験した、ブラック人材派遣業界の実態とは。
――企業の効率化・合理化の流れは変わらず、「正社員だから安心」とは言っていられません。中高年ブラック派遣の現実は、他人事ではありません。
中沢:私自身、まさかと思いました。私が会社を辞めたのは家族の介護が理由ですが、物書きでもやれば何とかなるという甘い考えがあった。堕ちるのは本当に早いです。だから、中高年の皆さんは、プライドも何も捨てて会社にしがみつくことですよ。
それでも、もしリストラされるとなったら、絶対にブランクをつくらないこと。失業手当をもらいつつ、いい再就職先をなんて言っている間に、1年なんてすぐです。ブランクは3か月まで。それが半年になると、「こいつは就労意欲がない」とみなされます。
また、税理士は難しいにしてもFPなり保険のアドバイザーなり、何か資格を持つと時給1500円はいける可能性はある。それもなければどうしようもないですね。かつ50歳を超えていたら昼間は時給900~1000円の仕事しかないと思ったほうがいい。
――どうしようもない……。
中沢:ただ、派遣慣れしてくると、同じ事務所移転の仕事でも大きなオフィスビルや病院などの専門性の高いところは楽だとか、人気のない募集はギリギリになると時給が上がるとか、仕事選びのコツがわかってきます。頭を使って要領よくやれば、時給900円の世界が1300円の世界にはなるでしょう。決して、今の派遣業界を肯定するわけではないですけどね。
――現在、国会では派遣期限の制限を撤廃する派遣法改正が議論されています。この改正はどうお考えですか?
中沢:「より長く、より便利に派遣労働者を使えるようにしよう」という意図ですよね。政府は雇用安定措置を義務付けるとか、派遣会社に教育訓練などを義務付けるなどと言っていますが、そもそも、現行法が建前だけでできている。理想論にすぎる法律を現実だと認識し、この素晴らしい派遣制度をもっと拡大していきましょうということなのでしょうが、どこの世界の話をしているんだ?と思いますよ。
――どうしたら派遣労働の現場をよくしていけると思いますか?
中沢:日本では「同一労働・同一賃金」という当たり前の原則が浸透していません。まずは労働者の立場を健全な状態にしないといけないという意識を、社会全体が持つことではないでしょうか。具体的には、悪質な派遣先を公開して、社会的な批判を受けるかたちにする。一切の歯止めがなく、いくところまでいってしまい常態化してしまったのが今の状態です。これを不思議に思わない社会が一番の問題だと思います。
・プライドも何も捨てて会社にしがみつけ
・リストラされてもブランクをつくらないこと
・時給を上げるには資格を持っておくこと
【中沢彰吾】
1956年生まれ。東京大学卒業後、1980年毎日放送(MBS)入社。アナウンサー、記者として勤務。2006年、身内の介護のため同社を退社し、フリージャーナリストに転身。書籍や週刊誌、夕刊紙の取材・執筆活動のかたわら、派遣会社に登録。日雇い派遣業に従事している。
取材・文/鈴木靖子 撮影/我妻慶一(本誌)
― ジャーナリスト中沢彰吾「中年にさしかかってブラック派遣に嵌る……これが日本の現実だ」 ―
『中高年ブラック派遣』 家族の介護のため、会社を辞めた58歳、社員への再雇用などない。たどりついたのは20代社員が、自分の親世代の中高年に罵声を浴びせながら酷使する現場。人材派遣が生んだ奴隷労働の実態ルポ。 |
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