ギリシャ危機の陰で報じられない「ベネズエラ」の窮状

2014年にはマドゥロ政権に対する大規模な抗議行動も行われた。(photo by durdaneta)

 ヨーロッパで深刻な経済危機にあるギリシャは、この5年間経済はマイナス成長を続け、多くの国民が苦しい生活を余儀なくさせられているのは各メディアで盛んに報じられている。  しかし、それより以前の2006年から経済危機を堪え忍んでいる国がある。  それは、南米のベネズエラだ。

年180%のインフレ、日用品・医薬品の枯渇

 ベネズエラは、ここ数年さらに苦境に立たされている。というのも、最近の原油価格の下落によって、輸出の95%を担う原油の輸出による外貨の歳入が大幅の落ち込み、ベネズエラ経済を更に苦しめているのだ。  インフレも深刻だ。ベネズエラは今年に入って、インフレは既に50%を越えている。そして年間で180%近いインフレが予測されている。昨年のインフレはベネズエラ中央銀行の発表は68.5%であったが、実質インフレは80%近いと言われていた。さらに言えば、外貨保有高や日用品の在庫も枯渇寸前だ。  米国でベネズエラのニュースを伝える『ボス・デ・アメリカ』によれば、〈主婦マリアが粉石鹸3袋と米を2袋を購入しようとして、レジで消費者割当証明書を提示したところ、レジで「今日の購入割り当てに入っていない」と言われた。彼女はレジの女性に「家でそれがまったく不足している」と説明して、定価よりも高く払って品物を手に入れた〉という。同紙によれば、ベネズエラ国民は、毎日のようにスーパーの前で列に並ばねばならないことに疲弊しきっているという。  更に深刻なのは病院で使用する医薬品が95%不足しているということである。注射器やガーゼは勿論不足している。昨年2月の電子紙『マドゥラダ』の記事では、分泌腺専門医ビクトル・アコスタ氏が、〈「最も深刻な問題はテクネチウム99が在庫切れになっていることだ」また「X線、マモグラフィー、エコーなどを実施する為の必需品が不足しており、在庫があと3か月分しかない。バイオプシーを行なう針も在庫切れ寸前だ」〉と語ったことを伝えた。更に同紙は、カラカス医科大学のオマール・アリアス医師が〈「トモグラフィーやレゾネーターは使用出来なくなっている」〉と述べたことや、核医学治療専門医チャパッロ氏が〈「ヨード131が不足している。腫瘍患者の80%がこの影響を受けている。ドキソルビシンやオンダンセトロンなど受容体拮抗剤も入手が出来ない」〉述べ、ドミンゴ・ルシアニ病院のアドゥリアナ・ベッリョ血液腫瘍専門医は〈「リン腫の拮抗剤が手に入らない」と答えた〉ことなどを報じている。

窮状のベネズエラに接近する中国の影

 現在ギリシャの財政を支えているのはトロイカ(EU、ECB、IMF)であるが、ベネズエラの財政を支えているのは中国である。ベネズエラは反米意識が強く、米国の影響下にあるIMFや世銀からは資金の調達は出来なくなっているのがその理由だ。  中国国内で資源需要がこれからますます増大するのを前に、ラテンアメリカはその必要資源を確保する上で重要な地域であり、中国はそのために南米で地固めしているのは既報の通り。特に、原油の埋蔵量では世界最大を誇るベネズエラとの関係維持は中国にとって非常に重要なのだ。そのため、ベネズエラの財政が長く困窮している中、中国は同国に資金支援を続けている。スペイン紙『エルコレオ』によれば、〈これまで420億ドル(5兆1,660億円)が中国からベネズエラに投入されて来た。その内の240億ドル(2兆9,520億円)は既に返済されており、4月には新たに50億ドル(6,150億円)が中国から提供された〉という。ちなみに、債務の返済は原油を送ってそれを相殺する形で支払われているそうだ。  中国にとって、ラテンアメリカで経済同盟「メルコスール」の主要構成国ブラジル、アルゼンチン、ベネズエラは中国のラテンアメリカ支配の基軸になっている。しかしながら、アルゼンチンも経済危機にあり、ハイパーインフレの国で、今年はデフォルトも経験したが、中国は今も同国に投資を続けている。アルゼンチンの大豆など穀物の確保が中国には必要なのである。  この様な事態がベネズエラでいつまで続くか不明である。真偽のほどは定かではないが、米国はマドゥロ政権打倒で今年一度クーデターを計画したが、それは未遂に終わったと報じるメディアもある。ベネズエラが2016年にデフォルトする確率は五分五分だという声もある。このことが、南米における米中の覇権争いにどのような影響をもたらすか。ギリシャ情勢以上に日本にもかかわってくる問題であるため、注視していく必要があるだろう。 <文/白石和幸 photo by durdaneta on flickr (CC BY 2.0)> しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなす。
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身
バナー 日本を壊した安倍政権
新着記事

ハーバービジネスオンライン編集部からのお知らせ

政治・経済

コロナ禍でむしろ沁みる「全員悪人」の祭典。映画『ジェントルメン』の魅力

カルチャー・スポーツ

頻発する「検索汚染」とキーワードによる検索の限界

社会

ロンドン再封鎖16週目。最終回・英国社会は「新たな段階」に。<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

国際

仮想通貨は“仮想”な存在なのか? 拡大する現実世界への影響

政治・経済

漫画『進撃の巨人』で政治のエッセンスを。 良質なエンターテイメントは「政治離れ」の処方箋

カルチャー・スポーツ

上司の「応援」なんて部下には響かない!? 今すぐ職場に導入するべきモチベーションアップの方法

社会

64bitへのWindowsの流れ。そして、32bit版Windowsの終焉

社会

再び訪れる「就職氷河期」。縁故優遇政権を終わらせるのは今

政治・経済

微表情研究の世界的権威に聞いた、AI表情分析技術の展望

社会

PDFの生みの親、チャールズ・ゲシキ氏死去。その技術と歴史を振り返る

社会

新年度で登場した「どうしてもソリが合わない同僚」と付き合う方法

社会

マンガでわかる「ウイルスの変異」ってなに?

社会

アンソニー・ホプキンスのオスカー受賞は「番狂わせ」なんかじゃない! 映画『ファーザー』のここが凄い

カルチャー・スポーツ

ネットで話題の「陰謀論チャート」を徹底解説&日本語訳してみた

社会

ロンドン再封鎖15週目。肥満やペットに現れ出したニューノーマル社会の歪み<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

社会

「ケーキの出前」に「高級ブランドのサブスク」も――コロナ禍のなか「進化」する百貨店

政治・経済

「高度外国人材」という言葉に潜む欺瞞と、日本が搾取し依存する圧倒的多数の外国人労働者の実像とは?

社会