1年間で300万人が避難を余儀なくされるイラクの現実

避難先のMSF診療所で検査を受ける赤ちゃん(© Gabriella Bianchi/MSF 2015年3月)

 国境なき医師団(MSF)は、紛争によって暴力が急増するイラクにおいて、多大な犠牲を強いられている市民が必要な生活環境と医療を得られるよう、人道援助の拡大を呼び掛けている。  現在、イラクでは暴力が急増しており、過去1年間に大勢の人びとが住まいを追われ、現在は緩衝地帯に追い込まれて最低限の人道援助も受けられないまま身動きがとれなくなる状態に陥っている。もちろん人道支援は行われているが、その多くは主にクルド人自治区など比較的安全な地域に集中しており、中部や北部では援助が圧倒的に足りていない。

過去数十年で最悪の人道危機

 MSFによれば、イラクにおけるMSFの活動責任者であるファビオ・フォルジョオーネ氏は「イラクは過去数十年で最悪の人道危機を迎えています。特に中部では何千人もの人びとが人道援助を早急に必要としていますが、実際には受けられていません」と話しているという。
イラク

電気も水もない建設中の建物に多くの避難民が暮らす(© Gabrielle Klein/MSF 2015年1月)

 現在、イラクではイラク中部と北部にあるアンバル県、ニネワ県、サラーハッディーン県、キルクーク県、ディヤーラ県の激しい戦禍が原因で300万人弱が避難生活を余儀なくされているという。広範囲に及ぶ暴力、繰り返される避難生活、過密状態にある避難中の生活環境など、避難民の生活は厳しい。  MSFも、首都バグダッドとアンバル県の間に広がる緩衝地帯でも活動しているが、避難者の多くが衛生設備や清潔な水なしに生活していると現地から報告を受けている。  現地のインフラと医療施設は損壊して機能しておらず、医療スタッフもますます不足してきている。基礎医療さえ受けられない人が多くいる一方で、稼働中の病院があっても、移動することが危険な地域では辿り着くことさえ難しい状態にある。  にも関わらず、人道援助も比較的安全な地域に集中してしまい、前出のイラク中部・北部の各地では十分な援助が足りていないという。

MSFも活動を拡大し対応

 そうした状況を受けて、MSFはイラク中部と北部の活動を拡大し続けている。キルクーク県、サラーハッディーン県、ディヤーラ県、ニネワ県とバグダッド県で移動診療を行い、紛争地から逃げてくる人びとと地元住民を対象に医療を提供している。一般診療では非感染性疾患、リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)、心理ケアに力を入れているという。  その一方で、暴力が他の人口密集地に広がってさらに多くの人が避難するリスクは高く、MSFは警戒を強めている。前出のフォルジョオーネ氏は「イラクの全利害関係者は、暴力から避難するイラクの人びとが人道援助を受けられるようにあらゆる手を尽くすべきです。MSFは全力を挙げていますが、全てのニーズに対して効果的に応えられるわけではありません」と話す。 ⇒【写真】はコチラ https://hbol.jp/?attachment_id=44951 参照:国境なき医師団<文/HBO取材班 写真/国境なき医師団(MSF)>
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