民主化運動の闘士・陳破空氏が語る「中国の今後」

天安門広場 2014年6月4日、世界中に衝撃を与えた天安門事件から25年が経った。武力弾圧で多数の死傷者が出るなど、共産党独裁体制の象徴とも言えるこの事件。その真っただ中にいた男がいる。天安門事件の中心的人物として二度投獄され、アメリカに亡命をはたした中国民主化運動家の陳破空氏だ。現在ニューヨーク在住の陳氏は中国民主化に関する論客として台湾や香港で活躍しており、日本でも『赤い中国消滅 張り子の虎の内幕』を上梓し、大きな反響を呼んだ。そんな陳氏が天安門事件25年の節目となる今年、文藝春秋社より『日米中アジア開戦』の日本発売を記念して緊急来日。中国の民主化について各地で講演を行った。そんな陳氏に天安門事件を振り返ってもらい、今後の中国について話を聞いた。

国外への独裁を目論む共産党

 そんな陳氏の目から見て、天安門事件とはどのようなものだったのだろう? 1988年まで総書記を務めていた趙紫陽が民主化運動に対して同情的だったことから、陳氏をはじめとした民主化運動に参加した人々は当時、共産党の暴力的な弾圧は予想しづらかったという。 「当時、私たちは非常に楽観的で、中国はまもなく民主化するだろうと思っていました。そこで思いもよらなかったのは八大元老による“老人政治”です。これは他の共産国にはない特徴で、今に至るまで、民主化運動に対する最大の障害となっています」  大きな爪痕を残したこの事件だが、25年経った今も中国政府が過ちを認める気配はないどころか、正当性を主張する始末。ここ2か月の間でも民主化運動家が拘束され、Googleでの検索機能が不能になるなど、中国国内では民主化運動への締め付けが強くなっている。そんな中、当時に比べて中国が一番大きく変化した点はいったいなんなのだろうか。 「大きく4つの変化があると思います。1つは汚職が数十倍、数百倍になっていること。腐敗した政治家たちは次々とその財産を海外に移しています。2つ目は経済発展のめざましさです。ただ、これは格差につながっています。3つ目は民主化運動が暴力的になっていること。ウイグル自治区では武力抵抗が続いていますし、チベットでは多くの焼身自殺が行われています。衝突の規模も大きくなりました。4つ目は対外的に強硬な姿勢が目立つようになったこと。東シナ海では日本、南シナ海ではインドやフィリピンへの圧力を強めていますが、内への独裁から外への独裁に変化しているのです」  経済成長を上回る勢いで軍事費が増長していることからも、中国が世界の脅威になっているのは間違いないだろう。では、中国国内の民主化運動は今後どう変わっていくのかは気になるところだ。 「25年前の民主化運動は平和・理性的でした。当時、学生たちは建物を占拠したりすることもできたと思いますが、我々はしませんでした。もし、今同じ規模の民主化運動が起きたら、ウイグルのように武力で抵抗するようことになるでしょう。ただ、軟弱な国民性では中東のような革命や武装蜂起は難しいと思います。だからこそインターネットを活用しているのです。ネット上は反政府的な発言で溢れていますし、政府は人民を恐れています。“見えない戦争”はもう始まっているのです」

中国の民主化には戦争が必要!?

 明るい兆しの見えない中国だが、陳氏によれば中国政府が転覆し、民主化するには2つのシナリオが考えられるという。 「1つは日清戦争のように、外部における戦争で日本やアメリカに負け、国民が立ち上がったときです。2つ目は内部における権力闘争でひっくり返る可能性。政敵を倒すために民主化運動を利用し、結果、民主化することがありえます。習近平が特に固執しているのは“政治の安全”。彼は9つの役職でトップについていますが、それは政権内での立場が不安定なことの裏返しなのです」  民衆の手前、腐敗に対抗しなければならないが、自分の周りにいる利権集団に睨まれてしまう……習近平は板挟みになっているのだ。  仮に日本が衝突することになれば最悪の事態を招きかねない。中国国内でのパワーバランスの変化を見るうえでも、習近平、そして背後で暗躍する政治老人の動きに注目だ。 (注:政治老人とは高齢の政治家のことで、習近平などの首脳部に絶大な影響力を持つ政治家のことを指す。長老支配とも言い、中国などの共産圏の国でよく見られる。90歳近くになっても現役を続けた鄧小平などが有名) <取材・文/林バウツキ泰人>
ライター・編集者。日本人の父、ポーランド人の母を持つ。日本語、英語、ポーランド語のトライリンガルで西武ライオンズファン
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