ファスト・ファッションの王、ZARA・アマンシオ・オルテガの経営哲学

 世界を席巻しているファストファッションブランド「ZARA」。資産679億ドルを所有して、フォーブス富豪者番付4位にランキングされるZARAの創業者、アマンシオ・オルテガの実像に迫る短期集中連載最終回。

アマンシオ・オルテガの経営哲学

ZARA

photo by Aurelijus Valeiša(CC BY 2.0)

 目立つことを嫌うアマンシオ・オルテガ。彼の経営哲学は松下幸之助に似ているようにも思える。  彼のZARAショップでの販売哲学は次の6つである。 1.店員はいつも優しい視線を持っていること。 2.レジではいつも笑顔で応対すること。 3.手には常にボールペンを持っていること。 4.チーフは誰よりも多く接客すること。 5.試着室は販売に重要な場所である。 6.店内のどの場所でも忍耐で満たされていること。  また、彼は経営において以下のことを重要視している。 *常に道理にかなったことに基づいて決定する。 *人には常に客観性をもって臨み、相手の立場に自分を置いてみること。 *指揮することは資格ではない。人より先を進んで、そして手助けをして人に教えることである。 *否定的な観点から物事を判断するのであれば、同時にその為の解決方法も示してあげること。 *仕事については常に複数形で話すこと。「これは自分がやった」とは絶対に言わないこと。 *小さなことに注意を払うことは大事である。目を大きく開け、耳を強く傾けて生活することである。 *納品業者には敬意をもって応対すること。 *我々を取り囲む周囲は全て競争相手である。相手を過小評価してはいけない。それで大企業は潰れている。 *ビジネスの核心がゆらぐことのないように、決定は敏捷性をもったものであること。失敗は許されない。

危機は恐怖の対象ではない。チャンスである

 そしてアマンシオ・オルテガは、常に成長と挑戦を恐れない。彼は「幼少の何もない頃でも、成長することを夢見ていた。成長することが存続の為のメカニズムである。成長がなければ、企業は消滅する」とも述べている。  彼にとっては、危機的状況も成長を妨げるものではない。  アマンシオへの直接のインタビューをした本『Asi es Amancio Ortega, el hombre que creo ZARA.(アマンシオ・オルテガ-ZARAを作った男)』の著者であるコバドンガ・オシェア女史は、かつてアマンシオに危機を前に恐怖を感じるか尋ねたことがある。  すると、彼はこう答えたという。 ――「恐怖は持ったことはない。何故なら恐怖は自分を麻痺させることになるからだ。寧ろ、そこにチャンスが到来していることを掴むことが重要だ」

ZARAの基本マーケティング

 ZARAの商品販売の基本はスペイン語で3Bだと言われている。  Bueno(good)、Barato(cheap)、Bonito(beautiful)の3つである。そして消費者の「口込み宣伝」を大事にしている。それを容易にする為に、進出する都市のメイン通りの両側にインディテックス傘下の店舗を構えるのがポリシーである。消費者にとって、メイン通りの両側に構える異なった店は、それぞれ別会社の店のように見える。しかし、どのショップもひとつの母体であるインディテックス傘下の会社ということになっている。この戦略がある故に、テレビ宣伝の必要は殆んどない。世界の主要都市のメイン通りか、その周辺の人の集まる所にインディテックスの店が必ずあるということになるからだ。  ラベルダーという電子情報紙の中に『ファッションの未来はZARAである』という記事で、イブ・サン・ローレンのパートナーであったピエール・ベルジェがZARAについて次のように語っていた。 「ファッションの未来はZARAがつくる」 「嘗てのような、ファッションの創作デザイナーは存在せず、マーケティングによってブランドをつくり、そのブランドが生み出す製品を消費者が評価する」 「そこにはファッションの創作は必要ないのである。それを安く真似るだけで良い。あとはマーケティングの力である」  早熟な天才であったイブ・サンローランを公私ともに長くサポートしていたピエール・ベルジェにとって、ZARAのファスト・ファッションというコンセプトは驚愕だったに違いない。しかし、その天才の作品を世界的なブランドへと押し上げた彼のビジネス的視点は、ZARAが作る「ファッション」というビジネスの未来を正確に評価しているのである。 <参考文献> 『Asi es Amancio Ortega, el hombre que creo ZARA.』(Covadonga O’Shea) <文/白石和幸  photo by Aurelijus Valeiša on flickr> しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなす。
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身
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