ドローン少年事件で語られる「中二病の夢」と「イノベーションの夢」【後編】

オバタカズユキ
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ドローン

photo by David Rodriguez Martin via flickr

 少し古いものになるが、2014年の11月に日経産業新聞が「米アマゾンがほれ込んだ スイスのドローン魔術師」という記事を流している。ドローンの開発に携わるロボット研究者・ダンドレア氏を取材、氏から引き出したこんな言葉が印象的だ。

<ダンドレア氏のもとには研究成果に着目した世界の企業や起業家らから「1日平均1~2通の事業アイデアが届く」という。ただ「本当に興味深いと思うアイデアにはまだ出会えていない」。それでも同氏は「現時点で大きなビジネスチャンスを見いだせていないのは、私にとって問題ではない」と素っ気ない>

 つまりダンドレア氏は、自分の役割は徹底した基礎研究であり、ビジネスが先にありきで手がけるような安っぽいことはしてないんだ、というわけだ。そのスタンスは研究者としてまっとうだけれども、世界から毎日事業アイデアが届くようになっても興味深いものはひとつもない、という話には脱力感を覚える。ドローンの使い道は、結局のところノエル君のオイタに終着しました的なスカな顛末だったりしないのだろうか。

 ドローンを使った新しい試みに関するニュースもあるにはある。たとえば、「夢の空飛ぶ宅配便、実現へ一歩 ドローンが島に荷物運ぶ」。高松の港から8キロ離れた離島までドローンを飛ばすことに成功。今現在は、<離島での暮らしは、定期船がなかったり最終便は夕方だったりして、割高な海上タクシーを使うこともある。船賃がかかるため、まとめて買い物をする人も多い>。そんな島に住む人にとって、ドローンが新しい輸送手段として機能したらどんなにか助かることでしょう、という“いい話”だ。

 そりゃあ、安価なドローン宅配の実現で生活がコンビニエンスになる人はいるだろう。でも、空飛ぶ機械が落ちたら大変だ。人口密集地でのドローン宅配はイメージできず、あるかもしれないなと思うのは、離島とか山間の限界集落とか、そういうほぼ人の住まないところへの輸送だ。それは“いい話”に違いないが、肝心の市場規模はどんなもんでしょう。もし、そのためのドローン宅配のシステムが開発できたとしても、それが日本経済に強烈なインパクトをもたらす「イノベーション」だとは到底思えない。

 日経エレクトロニクスの「コマツが建築現場に革新技術、ドローンや自動操縦を駆使」と題する記事もあった。<無人飛行体(ドローン)や自動制御に対応するICT建機、クラウドコンピューティングなどを使って現場の生産性向上を目指すシステムである。これらの技術を駆使することで現場の工事費を2~3割、人手を半分程度に減らすことができる>とのことだ。

 なるほど、落下しても市民が被害をこうむるわけじゃない空間に建設現場があったか。これはカネになる取り組みかもしれない。だけど、上手くいけばいくほど、人手を減らせるという話でもある。例えば、キケンな足場で働くとび職の仕事がなくなるかも、という雇用問題が発生しそうだ。過度なロボット化がチームワークを損ねるなど、プロジェクトの全最適化のマイナスになる可能性だってある。

 だからね、そのようにマイナス思考ばかりするやつがいるから日本はダメなんだ!とお叱りを受けそうな気もするけれど、とっくの昔からドローン宅配を目指している米アマゾンもまだ実用化には至っていないようだ。ビジネス界ではしばしば「センミツ」という言葉が使われているが、イノベーションというやつも千のうち三のアタリがあれば儲けもの、つまり「99.7%は期待外れ」が常識だったりしないのだろうか。

 ドローンの実用化で唯一、これは絶対にあるぞ、と素人でも思いつくのは軍事利用だ。

あれが出てきた瞬間に、テロの有効手段だと思った>と押井守監督は直感したそうだが、実は、前掲したドローン開発者ダンドレア氏の記事でも、記者の<ドローンが悪用される可能性についてはどう考えますか>という問いに氏はこう答えている。

<すべての先進テクノロジーは良くも悪くも使われる。現在市販されているドローンに全地球測位システム(GPS)をセットすれば、爆弾だろうが化学兵器だろうが何でも運べてしまう。技術が間違った方向に使われることを防ぎながら、技術進化を止めないようにどう規制するかが問われている>

 技術進化を止めない規制。それって、具体的にはどういうこと? ドローンの活用法と同じく、こちらのほうもイメージがわかない。そんな機械なんて格好のお笑いネタでいいんですよ、とばかりに「ドローンでおでん配送した15歳逮捕 東京・足立区」なる記事をウソニュースというイノベーディブな報道スタイルを貫いているといえなくもない「虚構新聞」が流す。そういえば筒井康隆の代表作の一つに『虚構船団』という破壊的にイノベーティブなSF小説もあった。とか言い始めたら、なんでもかんでもイノベーションになっちゃいますね。

<文/オバタカズユキ 撮影/Nobuyuki Hayashi

おばた・かずゆき/フリーライター、コラムニスト。1964年東京都生まれ。大学卒業後、一瞬の出版社勤務を経て、1989年より文筆業に。著書に『大学図鑑!』(ダイヤモンド社、監修)、『何のために働くか』(幻冬舎文庫)、『大手を蹴った若者が集まる知る人ぞ知る会社』(朝日新聞出版)などがある。裏方として制作に携わった本には『大学キャリアセンターのぶっちゃけ話』(ソフトバンク新書)、『統合失調症がやってきた』(イースト・プレス)などがある。

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