周囲の人たちが自分の発言に責任を持ってくれないのは、なぜ?
2015.05.24
【石原壮一郎の名言に訊け】~林家彦六の巻~
Q:世の中は嘘つきばかりだ。会社の後輩女性が「ご飯でも食べに行きましょうよ」と言うから、とりあえず「検討しておくよ」と返事をして、スケジュールを調整してお店を調べた上で一週間後に声をかけたら「もういいです」と断られた。自分から誘ったくせに! 取引先との仕事の話でも、じっくり考えたほうがいいと思ってその場での返事を保留すると、次に会ったときにはそんな話はなかったような顔をされる。どうしてみんな自分の言ったことに責任を持てないんだ!(東京都・25歳・技術職)
言葉は、口から出た瞬間から鮮度が落ちていきます。時間がたてば意味やニュアンスが変わっていくのは仕方ないし、それは嘘をついたわけでも不誠実なわけでもありません。言葉のそういう性質を無視して、カビがはえた昔の発言を持ち出してきて「あのときこう言っじゃないか」と責めるのは筋違いだし、大人としてちょっと卑怯だと言えるでしょう。
【相談募集中!】ツイッターで石原壮一郎さんのアカウント(@otonaryoku )に、簡単な相談内容を書いて呼びかけてください。
いしはら・そういちろう/フリーライター、コラムニスト。1963年三重県生まれ。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』(扶桑社)でデビュー。以来、さまざまなメディアで活躍し、日本の大人シーンを牽引している。『大人力検定』(文春文庫PLUS)、『大人の当たり前メソッド』(成美文庫)など著書多数。近年は地元の名物である伊勢うどんを精力的に応援。2013年には「伊勢うどん大使」に就任し、世界初の伊勢うどん本『食べるパワースポット[伊勢うどん]全国制覇への道』(扶桑社)も上梓。最新刊は、定番の悩みにさまざまな賢人が答える画期的な一冊『日本人の人生相談』(ワニブックス)
A:なんだか生きることに不器用そうな方からの相談が来ました。今日も喫茶「いしはら」のカウンターでは、町内の常連さんたちがくつろいでくださっています。ちょうど、落語が大好きで落語家になりたかったけど、家業の本屋さんを継がなきゃいけなくて落語の道はあきらめた丸さんが来ているので、ちょっと聞いてみましょう。ずいぶん怒ってますけど、どうしたもんでしょうね。
何を言ってやがんだよ、このとうへんぼく。鉄は熱いうちに打て、天ぷらは熱いうちに食えって、昔から決まってんだ。せっかく誘ってもらってんのに、1週間も間をおくヤツがあるか。人の気持ちってのは、あっという間に移り変わるんだよ。ウチに来るお客さんも、読みたい本がそのとき店に置いてないと、予約して待ってまで買おうと思ってくれないもんな。もしかしたらネットで注文してのかもしれないけどさ。
本屋の愚痴はさておき、こいつには、俺の尊敬する林家彦六師匠の言葉を贈りたいね。弟子の林家木久蔵(現・木久扇)がネタにして広まった話だけどな。ある時、木久蔵は鏡餅のカビを小刀で削っていた。その様子を見ていた師匠とこんなやり取りがあったそうだ。
「師匠、どうして餅ってカビが生えるんでしょうかね?」
「ばかやろう、早く食わねえからだ!」
そうなんだよ。物事にはタイミングってのがあるんだ。ウダウダ考えたり迷ったりしてないで、さっさと行動すりゃいいんだよ。じゃないと、せっかくの気持ちにやヤル気にカビが生えちまうからな。餅にカビが生えるのは当たり前だし、理由なんて考えても仕方ねえ。「早く食わねえからだ」と言い放った彦六師匠は、人生の真実を突いてるね。
師匠はほかにも、春風亭小朝にもらったアーモンドチョコレートを食べて「やい、小朝、このチョコレートには種があるぞ」と言いながらアーモンドを吐き出したとか、味のある逸話をたくさん残してくれてる。要は、そんなに肩肘張ってないで、気楽に自由に生きろってことだな。言葉ってのは賞味期限が短いんだ。いつまでも責任なんか持ってられねえよ。
【今回の大人メソッド】「あのときこう言った」と責めるのは筋違い
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