どこの国にも属さない土地に「税金は払いたい人が払う」国が建国していた

リバーランド自由共和国国旗(公式サイトより)

 世界でも有数の小さな国が4月に誕生した。  クロアチアとセルビアの間に位置する、国土7km四方の「リバーランド自由共和国」だ(リバーランド自由共和国公式サイト:https://liberland.org/en/main/)  クロアチアからも、セルビアからも領有権が主張されていない土地に、チェコの市民民主党の議員ヴィット・ジェドゥリッカが建国した。そこは30年前から森があるだけだったという。同氏によると、政府の干渉や税金によって、個人の発展ある生活が阻害されていることに反対して、個人の尊厳を守るために建国したという。

ユーゴ分裂後の複雑な領土設定から生まれた空白の土地

「リバーランド自由共和国」はバチカン市国(0.44平方km)、モナコ(2平方km)に次ぐ、3番目に小さな国となる。  同国が位置する所は、かつてユーゴスラビア連邦共和国が形成されていた。  1929-2003年まで存在した社会主義国家ユーゴスラビア連邦共和国。その都市のひとつ、サラヘボは1980年に冬季オリンピックが開催された所だ。しかし、それから20年して、連邦体制を維持していた国家指導者チトーの死と共に、ユーゴスラビアは解体が始まった。  連邦国家を構成していた国同士が紛争を起こし、およそ10年余り泥沼化した熾烈な内戦が続いた。その結果生まれたのが現在ある6つの国、スロベニア、クロアチア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、セルビア、モンテネグロ、マケドニアである。その後、セルビアから自治州のコソボが独立した。このような複雑な国家形成を歩むと、自ずと自国領土の完全なる領土設定にも盲点が生まれるようである。  リバーランド自由共和国はその盲点から生まれた。どの国にも属さないという土地に誕生したのである。スペインの経済紙エクスパンシオン紙によれば、建国者であり、大統領でもあるヴィット・ジェドゥリッカは、<「政府の干渉と高い税金を課す現状に満足しない人たちから成る国家である」>と述べている。

コンセプトは「自由」。税金は市民の意思で決まる

リバーランド自由共和国

公式サイトのトップページ

 もちろん、公式に国家として認められたわけではないが、国旗はすでにできており、行政も法務省、保健省、財務省、内務省、外務省の5つの省で行うと決まっている。さらに、憲法も、まだ草案の段階で、発布には至っていないというものの、権利と義務が言及されているものがある(https://liberland.org/en/laws/)。ただ、基本的には自由を尊重し、その意味で憲法に加えられるべき提案に限界はないという。現段階明白なことは<婚姻の規定はない。一方、麻薬は市民の間で良い関係が維持されるために違法とする>だとか。また、軍隊は存在しないが、警備体制は出来ているそうだ。(http://www.expansion.com/economia/2015/05/10/554f9e74ca4741cf788b458c.html)。  リバーランド自由共和国の特徴の極めつけは「税金は払いたい人だけが払う」というコンセプトだ。曰く、<所有者との合意がない場合は、国による如何なる没収も認めない>とし、ヴィット・ジェドゥリッカ大統領は、<「税金が市民の意思で支払われるという世界で最初の国にしたい」「具体的な事業に市民が融資することを希望する」>と話していると報じている。  なぜそのようなコンセプトなのかと言えば、ヴィット大統領の言葉によれば<「建国の主旨が尊重されて、無謀な税金の支払いから逃れた資金が投資として集まることを期待している」><「自由経済が国を発展させる。お金がたくさん集まって、使い道に困る程になることを望んでいる」>からだという。  通貨もまだ決まっておらず、どこの外貨でも通用し、当然ビットコインなども支払手段として受け入れる予定だ。  ちなみに、建国の日は米国の自由の信奉者だった、トーマス・ジェファーソンの誕生日。 <市民の義務は他人を尊重すること><私有権の尊重><ナチス、共産主義、極派に属していないこと、前科も無いこと>が市民権を獲得する条件だというが、建国からまだひと月程度しか経過していないのに、すでに26万人もが市民権を得たいと要望しているという。 http://www.elconfidencial.com/mundo/2015-04-27/liberland-nuevo-pais-micronacion-republica-libre_783407/ <文/白石和幸>
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身
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