静かな人気を呼ぶ海軍カレー。その魅力とは?

 ゴールデンウィークの大型連休が明けて最初の週末、5月9日(土)10日(日)に横須賀市の三笠公園で「日本最大級のカレーイベント」と銘打った「よこすかカレーフェスティバル」が開催された。  横須賀市内の有名店のカレーが並ぶ「カレーの街よこすかエリア」、全国のご当地カレーが集結した「全国カレーエリア」、レトロな海軍カレーや海上自衛隊カレーが味わえる「カレーバイキングエリア」と、日本最大級と呼ぶにふさわしい種類のカレーが勢揃い。カレー好きにはたまらないイベントで、例年数万人を集めるにぎわいは健在で、今年も完売のブースが続出。昨年に勝るとも劣らない人出だった。  会場の三笠公園には、記念艦として戦艦三笠が保存されている。カレーをお腹いっぱい食べた後、腹ごなしに散歩すれば、横須賀の港に浮かぶ海上自衛隊の護衛艦や米海軍の軍艦が目に入ってくる。  海軍、そして海上自衛隊とカレーには、歴史的な長いつながりがあり、同じく海軍から海上自衛隊に至る長いつながりのある横須賀が、町おこしにカレーを推すのは、自然な流れといえる。 静かな人気を呼ぶ海軍カレー。その実力って? 近年、その海上自衛隊のカレーが一部で人気を集めている。海上自衛隊は各護衛艦ごとに独自のレシピがあり、味を競っている。海上自衛隊の公式サイトには、各護衛艦や部隊の食事のレシピを紹介するページがあるのだが、そのカテゴリーは「和食」「洋食」「中華」そして「カレー」である。  昨年は、横須賀で「第2回カレーナンバー1グランプリ」が開催され海上自衛隊の護衛艦と部隊、15チームが集結し味を競った。「よこすかカレーフェスティバル」が横須賀市主導で開催されるのに対し、こちらは海上自衛隊の主催イベントだが、なんと入場待ちの行列が1.2kmを越える程の人出となったのだ。  海上自衛隊には金曜日の夕食はカレーという風習がある。これは、狭い艦内に閉じ込められての航行中、曜日の感覚を失わせないために始まったと言われている。もう一つ、休日の土曜前夜で停泊中は夜間外出者が多いため、分量の融通を効かせやすいカレーになった、という説がある。ちなみに、週休二日制以前には土曜の夜、つまり休日の日曜前夜がカレーで、週休二日制導入で土曜も休日になってから、金曜夜がカレーになったそうだ。  海上自衛隊は、成立の課程から旧日本海軍の組織や人材を基に創設され、旧海軍の伝統を色濃く残している。艦内の食事として作られるカレーライスもその一つで、日本でカレーが人気メニューとなって普及した下地の生成に、海軍も一役買っているとも言われている。  昨年、NHK広島が制作・放映したドラマ『戦艦大和のカレイライス』では、劇中で当時のカレーライスが再現され、番組公式サイトにもレシピが掲載された。  筆者も試しに掲載のレシピで作ってみたが、中々の美味しさだった。  しかし、あくまで現代風に洗練されたレシピであり、当時の味そのままではなかった。なぜ、そんなことが分かるのかというと、もっと当時に近いカレーを作って食べたことがあるからだ。  そのレシピは、この本、『自分でつくるうまい! 海軍めし』に掲載されていた、昭和3年5月24日、戦艦「長門」昼食のビーフカレーだ。  カレー粉と小麦粉をヘット(牛脂)で炒めて、具は牛肉のほかに、さいの目に切った玉ねぎ、じゃがいも、さつまいも(!)、だいこん(!)だ。美味しさでいえば、正直、現代のカレーの方が上だと思うが、素朴で懐かしい味は、少々感動したのだった。前記の海上自衛隊カレーは、結構凝った作り方のものも多いが、この本のカレーは市販のカレールーを使わなくても簡単に出来る(ただし、鶏ガラでスープを取って……とやると大変。しかしコンソメスープの素で代用可、それでも上手く出来る)。  そして、カレー以外の海軍料理のレシピも(材料や資料の関係でアレンジされたものもあるが)カレーと並んで、海軍で生み出された料理、肉じゃがを始め、簡単かつ美味しいものが多い。  また、士官食と兵食で別の料理が並んでいるのも面白い。日本海軍はイギリス海軍を範に成立、発展したため、その背景にある厳とした階級制度も導入されることになった。ごく大まかに言えば、士官=貴族、水兵=庶民で、食事内容にも差が付けられた格差社会であったのだ。士官食のレシピは、比較的凝った料理が多いのに対し、兵食は単純な料理が揃っている。  だがどちらも美味しかった。兵食は料理な苦手な人でも失敗なく作れると思う。逆に凝ったレシピの士官食にチャレンジしてみるのも面白い。  以上、もっともらしいこと書いている筆者だが、実は数年前までほとんど自炊はしていなかった。だが、ふと思い立って料理を作り始めたもので、今でも下手の横好きを絵に描いた程度のレベルである。その気まぐれに料理を作り始めた頃、たまたま読んだ『自分でつくるうまい! 海軍めし』中の単純な部類のレシピが、料理の入門編としては大変役に立ったのだ。大体、艦上で元は素人の烹炊兵(食事担当の兵士)にも作れるような料理なので、適当に作ってもそれなりに食べられる、というのは楽しい経験だったのだ。  カレーは誰の心をも躍らせる。来年のよこすかカレーフェスティバルを今から心待ちにするか、待ちきれない人はレシピサイトやレシピ本を見ながら、海軍カレーや海軍めしを自作するのもおすすめしたい。 <取材・文/伊東龍太郎 写真/くーさん>
自分でつくるうまい!海軍めし

『海軍割烹術参考書』『海軍主計二等兵調理術教科書』など、当時、海軍で使われていたレシピをもとに、海軍めし愛好家の作家と評論家がコラボレーション。闘うために食していた幻の味を再現、すぐできる60レシピ。

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