好調な不動産市況。バブルが弾ける心配はないのか?
3月中旬に’15年1月1日時点の公示地価が発表された。アベノミクスで、日本の景気は回復基調にあると言われているが、地価へはどんな影響が出ているのか? 日本不動産研究所の不動産エコノミストの吉野薫氏はこう分析している。
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「東京、大阪、名古屋の三大都市圏は2年連続で上昇傾向。そのほかの地方は横ばいとなっています。総じて不動産市況は、引き続き好調な流れにあると言えるでしょう。個別の地区を挙げれば、都内では、引き続き港区や中央区の上昇率が目立ちます。利便性が高くポテンシャルがある土地は伸びていますね。地方ならば、新幹線が開業した石川県金沢市の商業地や、再開発が進む名古屋も数字はよかった」
今後の争点になりそうなのは、オフィス賃料の上昇があるかどうか。賃料が上がればもう一段、不動産市況は活発になっていくとか。
「目安である三鬼商事のオフィス空室率データが6%を切ると、オフィス賃料が上がる傾向にあります。昨年1年間を通じて空室率が下がっており、現在は5%台前半で推移。そろそろ賃料が上がる局面が見えてきました」
ただし、吉野氏の見立てでは、もう少し早く賃料の上昇が起きると思っていたとか。
「思っていたよりも、昨年4月の消費増税の影響が大きいですね。消費増税の結果、不動産の売買が沈静化したというよりも、企業の設備投資が伸びてきません。やはり、昨年4月の消費増税以降の反動減が大きかった。今後、企業の設備投資が伸びていけば、賃料の上昇の後押しになるでしょう」
いずれにせよ、不動産市況には、明るい見通しが立っているわけだ。
一方、気になるのはリスク。土地の値段が上がると、真っ先に話題になるのが、バブル再来か否か。一部、株の投資家などには、「リーマン・ショック前の好調な市況の再来」との声や、バブルが来ているという憶測すらある。
「現在の不動産市況は、’06年前後の明らかな地価や不動産価格の上昇とは違います。当時、名を馳せた不動産流動化を扱う会社などの多くは、リーマン・ショックで消えていきました。現在は、土地の値段は上がってはいるもののバブルと呼べるものではありません。銀行側も貸し出しを慎重に審査していることもあり、バブルの兆候は見られませんね。リーマン・ショックの時のように、信用度の低い企業が不動産を買う動きにはなっていないので、今後も穏やかな上昇が続くと思います。もし、仮にバブルになるとすれば、金融機関のマインドが、積極的な貸し出しになれば、状況が変わる可能性がないわけではありませんが、その可能性は低いでしょう」
金融庁から銀行に対して、「貸し出しを強化せよ」とのプレッシャーがあるようだが、金融機関側は慎重姿勢を維持。横並びの意識が強いだけに、どこかが積極的な貸し出しを行えば、状況が変わるのかもしれないが、リーマン・ショック時の苦い経験があるだけに、その可能性は低いのだろう。
一方、東日本大震災の影響もあり、「材料費、人件費、地価」のトリプル高によって、再開発が計画通りに進まず、実需がしぼんでしまう可能性も指摘されていたが、その影響はどうなのか?
「建築資材の高騰は一巡した感じがあります。しばらく上昇していた資材価格も上昇が止まって落ち着いてきた。確かに2年前よりは高くはなっていますが、こなれてきたと思います。人件費についても高止まりしたままですが、どこまでも上がっていくという状況ではありません。大手の案件に人が集まりやすくなり、寡占化が進むのではないでしょうか。新興デベロッパーや中小の物件は、人材不足で工期が長引き、厳しい状況に陥る可能性はあるかもしれません」
リスクというリスクが見当たらない不動産市況は、今後もチェックしておいて損はないだろう。<取材・文/HBO取材班>
【吉野 薫氏】
日本不動産研究所不動産エコノミスト。日系大手シンクタンクを経て、現職。国内外のマクロ経済と不動産市場の動向に関する調査研究を担当している
不動産市況におけるリスクは何か?
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