億万長者の変遷から見えてくる日本経済の歩み――【深読みビジネス書評】
2015.04.26
日本の長者番付 戦後億万長者の盛衰』(菊地浩之著)だ。簡単に説明してしまうなら“折々の長者番付を確認しながら、日本経済の歩みを総覧できる本”といったところ。
そもそも長者番付とは何か。日本では1947年から2005年(2004年度分)まで、高額納税者公示制度に基づき、高額納税者の氏名と所得金額を公示していた。それをまとめた名簿のことを「長者番付」と一般的に呼称していたわけだ。
この制度は2005年度分から廃止され、従来のような長者番付はなくなってしまったが、以降も経済誌などで独自に算定した長者番付が発表され続けている。そのなかでも代表的なものが、経済誌『フォーブス』の日本版に掲載される「日本の億万長者」というランキング企画だ。今回の本においても「日本の億万長者」のデータを用いて、考察が加えられている。
内容について、まずは章立てを見ていただこう。
【第1章】新興成金と炭鉱業者の時代 1947~1953
【第2章】松下幸之助の時代 1954~1968
【第3章】土地長者の時代1969~1982
【第4章】所得税法の改正 1983~1991
【第5章】再び創業者の時代へ 1992~2004
【終章】フォーブスの億万長者 1998~2013
このように、戦後日本経済を時系列で追っていくような構成なのだが、1年も飛ばすことなく、ベスト10を紹介し、注目すべき人物など触れていく網羅感に、まず感心してしまう。ランキングには、日本経済史に名を刻む、著名な起業家や経営者、資産家、文化人などキーパーソンが数多く登場。その人物のプロフィールや功績、評価などがコンパクトに紹介されており、ビジネス紳士録的にも活用できるのもお役立ちのポイントだ。「おぉ、1954年度から1968年度までの15年間で、松下幸之助は9回も1位になったのか!!(残る6回は2位)」など、書中に登場する記録や逸話に、唸らされることも多いだろう。産業のトレンド、経営者や企業の栄枯盛衰などについても、もちろん知ることができる。
経済活動は、政治動向、世界情勢、法改正、文化、世相といったさまざまな事柄と密接に連動しているので、それらについても、ところどころで触れられている。その当時の物価も紹介されていて「1954年の公務員初任給は8700円。週刊誌(週刊朝日)が30円で駅弁(幕の内弁当)は100円だったのか」なんて情報を得られるのも面白い。
さらに巻末には「ブリヂストン/石橋家」「サントリー/佐治家」「大昭和製紙/斉藤家」といった一族の家系図まで掲載されていて、どのような人物が輩出され、どのような家と繋がっていったのかも知ることができる。とにかく情報が盛りだくさんで、資料価値も高い。これで800円(税別)なのだから、コストパフォーマンスはかなりのもの。
ここで、冒頭の一節に話を戻そう。
留まることのない時間の流れのなかで、ビジネスも刻々と動き、絶え間なく変化をしている。そもそも、ビジネスを含めたすべての人間の営みは、“いま、ここ”の一点のみで成立しているわけでなく、過去に起きた数多の事柄の、結果のひとつだ。だからこそ、過去に何があったのかを把握しておくことには、大きな意味がある。
すべては、大きな時代のうなりのなかで、細かな無数の点が繋がりあうようにして生じている――そんなダイナミズムに思いをはせながら、戦後70年に及ぶ日本経済の歩みをコンパクトに押さえることができる一冊だ。
<文/漆原直行>
そう、すべては繋がっている。
いきなり自己啓発臭のプンプンするフレーズから始めてしまったが、別に人類皆兄弟的な話をしたいわけではない。テーマは戦後日本経済の歴史だ。
ビジネスパーソンの常識として、基本的な知識として、日本経済がどのような徒路を辿ってきたのかをザックリとでも把握し、自分なりに整理しておくことは、わりと重要だったりする。知っていて当たり前、というテイで話が進められてしまう場面も多い。
第二次世界大戦において敗戦国となり、戦後復興から高度経済成長を経て、オイルショックがあり、日米貿易摩擦があり、内需拡大路線から大量消費社会が華開き、バブルに浮かれ、それが弾けて、倒産や失業、就職難など氷河期が訪れて、デフレから脱却できず、21世紀に入って回復基調に入ったと言われてもあまり実感がなく、サブプライム問題から世界金融危機があって、リーマン・ショックがあって、震災に見舞われて、アベノミクスが高らかに謳われて……と、我ながら大雑把すぎて泣けてくるが、こんな調子で日本経済の歩みを最低限把握しておくことは、ビジネスパーソンにとって必須知識といえるだろう。
そこで紹介したいのが、今回取り上げる『
『日本の長者番付 戦後億万長者の盛衰』 その時代時代に、どのような億万長者がいたのかを俯瞰する |
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