富士山「世界文化遺産登録抹消」問題のゆくえ。10か月の猶予期間切った…

富士山

縦×横、約10mの特大プロジェクション・マッピングを用いて、富士山の四季や縄文時代にまで遡る火山噴火の歴史を視覚化して展示

 今年の6月で「世界文化遺産」登録から早くも丸2年を迎える日本一の霊峰、富士――。  ここ数年、国内外を問わずにわかに活気づいた“富士山ブーム”によって、夏季登山者数は年間30万人前後にまで増加。昨年こそ、天候不順による登山ルートの開通遅延や、環境保全を鑑みた富士スバルラインのマイカー規制期間延長などの影響もあり2割程度減少したものの、現在に至るまで世界の“FUJIYAMA”人気は健在だ。  今年も、7月1日の富士吉田口(山梨県)を皮切りに順次山開きが始まるが、観光業隆盛の裏に根深く横たわる環境問題は今なお大きな課題となっている。ゴミの不法投棄、登山者急増に伴う宿泊施設やトイレ数の不足によるオーバーユース、富士五湖周辺の煩雑な景観などは、いまだ明確な改善策を見出せないまま。登録時の“条件”として、ユネスコの付属機関であるICOMOS(イコモス=国際記念物遺跡会議)から突きつけられた、富士山を取り巻く環境全般に対する改善命令とも言うべき「保全状況報告書」の提出期限が来年2月1日に迫るなか、地元関係者は手探りの対応を続けているのだ。  報告書の内容次第では、最悪の場合は登録抹消、もしくは世界遺産としての“質”が保たれていない状況にあると判断され「世界危機遺産」に加えられる可能性も十分にありうるというが、この差し迫った状況を裏打ちするかのように、先月には富士山のお膝元である静岡・山梨の両県が足並みを揃えるかたちで「富士山とその構成資産を適正に利用しながら保存管理する」を基本理念とする条例を制定。昨年から導入された5合目からの入山料制度への登山者の協力要請を明文化するなど、環境保全に対する積極的な姿勢をイコモス側に強くアピールする構えだ。  とはいえ、取り組むべき課題は何も環境問題だけに限らない――。 「実は、イコモスから課された“宿題”のひとつとして、富士山の文化的価値を後世に確実に伝えていくための具体策も求められているんです」  こう話すのは、企業や公共の文化施設の企画・プロデュースなどの事業を総合的に扱うトータルメディア開発研究所の河石勇さん。今月4日にリニューアル・オープンした「ふじさんミュージアム」(山梨県富士吉田市)の企画を担当した人物だ。 「それというのも、今回の富士山の世界遺産登録の正式名称が『富士山―信仰の対象と芸術の源泉』ということからもわかるように、古来から続く“山岳信仰”の対象としてはもとより、浮世絵をはじめとした多種多様な芸術活動の題材となり、海外の芸術家にも多大な影響を与えてきた富士山の、世界に広がる普遍的価値が評価されての世界遺産です。つまり、環境面の改善と併せて、この面も大変重要な課題であることは論を待たないわけで、その意味でこのミュージアムに課せられた役割は決して少なくないと感じています」  ここで、ふじさんミュージアムについて少し触れておくと、江戸時代に隆盛を極めた“富士講”に関する豊富な資料をメインに、富士山の起源と歴史、芸術文化との深い結びつきを、プロジェクション・マッピングやタッチパネルなどを用いたユニークな展示を通して体験的に学べることで現在、話題の博物館だ。河石さんの同僚で、チーフ・プロデューサーとして同ミュージアムの制作を担当した安藤淳一さんが話す。 「このミュージアムのメインテーマは、『富士を知る、日本を知る』なんですが、日本人と富士山との切っても切れない密接な繋がりとその歴史を“再発見”してもらうことが一番の狙いです。というのも、富士山との付き合いかたって、お正月のご来光を山頂付近で拝んだり、5合目のお土産屋で富士山グッズを物色するみたいな、どちらかというと派手なアクティビティばかりがフィーチャーされて、多角的な魅力を持つ富士山の全体像がいまいち伝わり切れてないんですよね。だから、このミュージアムを通じて『もっといろんな魅力や楽しみかたがあるんだよ!』ということをわかりやすく提示したかったし、その上で、目を背けてしまいがちな環境問題というネガティブな側面についての関心もさらに高まれば、こんなに素晴らしいことはない」  さらに、歴史を知ることが意識改革にも繋がることの好例として、入山料制度が挙げられると安藤さんは続ける。 「昨年から、保全協力金として1000円の入山料を試験的に徴収していますが、実はこれと同じようなことを江戸時代にも“お布施”(山役銭)というかたちで実施していたんです。登山道の要所にはお布施を払う門みたいなものがいくつか設置されていて、今の金額に換算して1200円ぐらいを入山者は自発的に支払っていた。つまり、入山料制度は何ひとつ目新しい試みではなく、むしろ原点回帰に近いシステムを改めてスタートさせただけなんですよ。ミュージアム内でも、お布施についての詳細な展示を行っていますが、『昔の人はこんな風にしてお金を払って、こんな風にして富士山のためにお金が使われていたのか』というこの一事を知るだけでも、富士山に対する考え方は一変するはず」  まずは、「地元である富士吉田の人たちに来館してもらいたい。そして、富士山について学んだ知識を、観光客をはじめとした多くの人々に話し聞かせることで、もっと議論が活発になって欲しい」(河石さん)とも語るが、来年2月の提出期限まで1年を切った今、官民を巻き込んでの暗中模索の対応が、果たして凶と出るか吉と出るか……。まだまだ予断を許さないが、「ふじさんミュージアム」に代表される“文化的側面”からの好アシストが、富士山を救うその一助を担うことだけは、まず間違いないと言えそうだ。 <取材・文/藤原哲平> 【ふじさんミュージアム】 【住所】山梨県富士吉田市上吉田2288-1 【電話】0555-24-2411 【HP】www.fy-museum.jp
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