マウントゴックスの破たん処理を支援しているペイワード社のジェシー・パウエルCEO
「マークの経営手腕だと、いずれマウントゴックスは危ないんじゃないかという予感はありました」
そう振り返るのは、ビットコインの世界的大手取引所「クラケン」を運営するペイワードCEOであるジェシー・パウエル氏だ。「マーク」とは、昨年2月に経営破たんし、ビットコイン界に衝撃を走らせたマウントゴックスの代表、マーク・カルプレイス氏のこと。「友だちではないよ」と言うものの、ジェシー氏との縁は深い。
「マウントゴックスの破たん理由はハッキングに伴うビットコインの紛失でしたが、同社は2011年にも盗難事件にあっています。その処理を手伝うために日本に来たことがあるんです。僕がクラケンを立ち上げたのも、それがきっかけ。マウントゴックスのやり方を見ていて、セキュリティをもっとしっかりした取引所が必要だと思ったんです」
約74万ビットコインが盗まれ、28億円もの預金残高が不足しているともされるマウントゴックス。その真相解明には当初、監査法人のトーマツと税理士法人のレクス会計事務所があたっていたが、債権者集会では「ビットコインの専門家でもない人たちに調査ができるのか」との声も上がっていた。
そこでマウントゴックスの破産手続き支援に手を上げたのが、ジェシー氏率いるペイワードだった。
「ビットコインのエキスパートが手伝わないと、事態がさらに悪化する恐れがあります。2012年にオーストラリアの『コインテクニカ』という取引所が、やはりビットコインの盗難により破たんしたことがありました。ところが、コインテクニカでは破たん処理を進めている最中にまたもビットコインが盗まれてしまった。マウントゴックスの事態を悪化させないため、私たちが手伝うことにしたんです。マウントゴックスを救うためではありません。マウントゴックスの利用者、さらにはビットコイン・コミュニティのためです」
マウントゴックスの破たんから1年以上が過ぎた。真相解明への道筋は進んでいるのだろうか。
「本当に紛失していたのかどうか、紛失したビットコインが見つからないかなど、調査を進めており、今月中にもマウントゴックスを利用していた人からの債権届け出を開始する予定です。まだスケジュールは固まっていませんが、順調に進めば4月から6月くらいまでを届け出期間として、8月くらいまでに利用者の残高を確定させ、9月か10月くらいにはビットコインを払い戻せればと思っています」
⇒【図:マウントゴックス破綻処理の進行イメージ】 https://hbol.jp/?attachment_id=35932
ホリエモンやゴールドマンサックス出身者も取引所に熱視線
残高の100%が戻ってくることはなかろうが、利用者が少しでも多くのビットコインを取り戻せることを期待したい。しかし、もうひとつ取り戻さないといけない大切なものがある。マウントゴックスによって損なわれたビットコインの「信頼性」だ。
「マウントゴックス以前、日本ではビットコインを知らない人も多かったと思います。それがマウントゴックスの破たんにより、『ビットコイン=マウントゴックス=危ないもの』となってしまった。日本ではビットコイン関連の会社を立ち上げても、銀行口座を開くことすら難しいと聞いています。信頼性を取り戻さないといけません」
日本進出を本格化し始めたクラケン、堀江貴文氏も携わる「Zaif Exchange」、ゴールドマンサックスを退職し起業された「bitFlyer」など、レバレッジをかけた取引が可能な「Quoine Japan」など、ビットコインを手軽に取引する環境が再び整備されつつある。
「アメリカではビットコインの取引所に対して非常に厳しい規制がかけられていますが、日本では自民党が規制強化を見送ったこともありビットコインに関しては非常に先進的な枠組みとなっています。日本は世界のFX取引の30%を日本が占めているそうですし、トレード対象や投資先としてビットコインがもっと普及してくるだろうと思います」
そこで気になるのは、ビットコイン価格の動向。ジェシー氏はどう見るのか。
「時間はかかるかもしれませんが、いずれは2013年の高値を超えてくるのでしょう」
再びの1000ドル超えを目指して、ビットコインのリベンジが始まりそうだ!
<取材・文/高城泰(ミドルマン) 写真/池垣完>