「ファストフード店の時給を1500円にしろ」は非現実的か? 世界の常識か?

オバタカズユキ
マクドナルド 4月15日、赤地に白抜き文字でそんな文言の書かれたプラカードを掲げた若者たちが、東京・渋谷のセンター街を練り歩いた。朝日新聞デジタルのニュースには、その模様を撮影した動画もついている。中にはマクドナルドのピエロ「ドナルド」のお面をつけた男性もいて、マイクを片手に次のようなアピールをしている。

<こんなんじゃ、やってらんないよって声が、この日本だけじゃなくって、世界のどこからも聞こえてきて、それで時給を上げなきゃ暮らしていけないよって声が、実際に時給を上げてきているんです>

 要するにファストフード店のパート・アルバイトの賃上げを求める街頭パフォーマンスなのだ。けれど、あれれなのはその人数。朝日新聞によれば<約50人が参加した>とある。動画は常に参加者たちをアップで映しているからそれなりの絵になっているのだが、ちょいと引きで撮影したらどんなにか寂しい光景になることだろう。

 このパフォーマンスを主催したのは、首都圏青年ユニオン他だという。同ユニオンは反貧困系の運動の世界では知られた労働組合だが、センター街で彼らの姿を見た通行人の多くは「渋谷にはやっぱりいろんな変人がいるなあ」くらいに感じただけ、だっただろう。動画を見ても参加者のほとんどがこの手の運動の専門家っぽいし、誤解を恐れずに言えば、ファストフードのアルバイトしか仕事がない大変な若者イメージよりも知的な顔かたちをしている。ということもあり、この件に関する私の感想は、また運動の「プロ」がなんか思いつきでやってるなー、なぜ50人しか集まらないのか考えてほしいけど、まあ頑張ってくださいねー、という程度だったのである。

 でも、こうしてパフォーマンスがマスメディアで報じられれば、もっとさまざまな反応が出てくるわけで、とりわけファイナンシャルプランナー(FP)の中嶋よしふみ氏が書いた<マクドナルドの「時給1500円」で日本は滅ぶ>という扇情的なタイトルの批判文は、ヤフーのトップニュースにも掲載され、かなり読まれた。

 中嶋FPからするとパフォーマンスの主張内容は看過できないものらしく、その非現実性を徹底批判している。

<時給が低いから生活が困窮している、だから時給を上げれば生活は改善する、という事なのだろう。さて、これは正しいのだろうか。結論から言うと100%間違いだ。もしファストフード店の時給が1500円以上になればマックもロッテリアもモスもすべてのお店がつぶれる>

 なぜ100%間違いか、その説明を箇条書きにするとこんな具合だ。

・彼らの主張は、業種を問わず従業員の最低賃金を上げるべきだという事だろう。もし最低賃金を大幅に引き上げたら何が起きるか。人件費の高コストを避けるべく作業の機械化が進み、結果、雇用自体が減る。

・人件費とともにあらゆるモノの価格が上がり、仕入れコストの負担が大きくなった企業は、海外からの輸入品で代替しようとする。結果、国産品が減り、また雇用も減る。

・時給1000円の付加価値しか出せない人に1500円を払う事は、企業にとってマイナスなのだ。解雇は規制出来ても雇用は強制できない。だから、1500円の時給をもらうにはそれに見合った仕事をすれば良い、という以外に回答は無い。

 他にもあれこれ批判しているのだが、要旨はこんなところだ。私はまあ、「ふつうに理解できる」と思ったが、同時に、「でも、1500円の時給をもらうに見合った仕事ができない人たちはどうすればいいの?」と軽い反発も覚えた。この私の問いについて、中嶋FPはこう書いている。

<もう雇用をセーフティネットかのように考えるのは辞めるべきだ。それによって、失業保険や生活保護など本来のセーフティネットが脆弱なまま放置され、解雇されたとたん貧困に陥る状況になっている>(※原文ママ)

<企業は徹底した競争を、国は手厚いセーフティネットを。これが当たり前の環境にならない限り、失われた20年は失われた30年になってしまうだろう>

 論理的には分かる。けれども、このまとめでチャンチャンでは、それこそ非現実的にすぎやしないか。なぜって、超高齢化や人口減少などによって、<失業保険や生活保護など本来のセーフティネット>の維持に必要な国の負担はどんどん増す方向にある。すでに限界が見えており、国は社会保障費の削減をあの手この手で進めはじめている。

 貧乏人からしたら国はちっとも頼りにならない。ならば、「とにかく最低賃金を上げよ」というストレートな要求から社会を変えていこうという発想もありなのではないだろうか。

⇒【後編】へ続く http://hbol.jp/35743

<文/オバタカズユキ 写真/midorisyu

おばた・かずゆき/フリーライター、コラムニスト。1964年東京都生まれ。大学卒業後、一瞬の出版社勤務を経て、1989年より文筆業に。著書に『大学図鑑!』(ダイヤモンド社、監修)、『何のために働くか』(幻冬舎文庫)、『大手を蹴った若者が集まる知る人ぞ知る会社』(朝日新聞出版)などがある。裏方として制作に携わった本には『大学キャリアセンターのぶっちゃけ話』(ソフトバンク新書)、『統合失調症がやってきた』(イースト・プレス)などがある。

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