かつて「うさぎ小屋」と呼ばれた日本式極小ワンルームがNYでブーム

「マイ・マイクロNY」の完成予想図

 日本の住宅は狭すぎるからと「うさぎ小屋」と呼ばれ、かつては外国からさんざん馬鹿にされたものだが、最近は海外の人々も狭い住居を馬鹿にできなくなってきている。今やヨーロッパやアメリカでも、うさぎ小屋がブームになっているのだ。  特に世界屈指の大都市ニューヨークでは極狭マンションが大きなブームとなってきており、今、マンハッタンのイーストリバーに近い27丁目には、最先端の極狭マンションが建設中だ。  このビルは「マイ・マイクロNY」と名付けられ、9階建て55戸で6月末に竣工予定。  アメリカでは狭いワンルームマンションのことを「マイクロ・アパートメント」と呼んでいるが、マイ・マイクロNYはニューヨークで初めてマイクロ・アパートメントに限定して造られたマンションビルだ。  このビルの画期的なところはワンルームマンション1戸ずつをニューヨーク郊外の工場で組み立てるプレハブ式という点で、ワンルーム1ユニットには日本のワンルームのようなミニキッチンが設置され、バリアフリーのバスルームがあり、部屋が狭い分、窓を大きくして開放感を演出し、天井にはお洒落なセイリングファンも設置される。  収納スペースがほとんどないためビル内にトランクルームも設置され、最先端かつ機能的な造りになっている。  このユニットを組み立てた後、マンション建設地にクレーンで積み重ねるという建築方法がとられる予定だ。

ここにユニットが積み上げられる

 地震の多い日本ならそんなやり方で大丈夫なのかと思うが、ほとんど地震のないニューヨークではそんな不安の声も挙がっていない。ユニットを積み重ねる建築方法なので6月完成予定というのに4月中旬になっても工事現場はまだ土台ができているだけで、ビルは姿も形もない状態だった。  このマイクロ・アパートメントの最も注目すべき点は、何といっても平米数と家賃だ。広さ260~360平方フィート(約24~33平米)、家賃は月2000~3000ドル(約24万~36万円)。これはかつてないものだと、ニューヨークで大きな話題になっているのだ。

極小ワンルームのために規制緩和まで

 日本の感覚ではぴんとこないかもしれないが、実はニューヨークではワンルームであろうと何であろうとアパート、マンションは1戸につき400平方フィート(約37平米)以上の広さがなければならないと法規制がなされている。アメリカに広いアパートやマンションしかないのは、このような規制があるためだ。ワンルームだとしても37平米もあればやはり家賃設定は高くなり、マンハッタンのど真ん中ならマイ・マイクロNYの1.5から2倍はするだろう。つまりワンルームで月2000~3000ドルの家賃というのは、ニューヨークでは非常にリーズナブルなのだ。  400平方フィートでなければならないところを260~360平方フィートで建設できることになったのは、このマンション建設のために特別に法律の修正を行ったためだという。一番狭い24平米の部屋は、日本ならやや広めのワンルームといったところだろうか。東京都内で同程度の広さの部屋を借りるとなるといくらかかるのか検索してみたところ、人気の世田谷区内で月6万円、都心の渋谷区でも月7万円の物件がある。安くても2000ドルというのはちょっと驚きだが、これがニューヨークの住環境だ。  もっとも、ニューヨークでは古いマンションやホテルを改装してマイクロ・アパートメントに造り替えている物件も増えており、マイ・マイクロNYよりさらにリーズナブルな部屋もある。広さは12平米程度で、バスルームはシャワーのみでミニキッチンが付き、部屋はベッドを置くともう2畳ほどのスペースしかなくなりベッドで寝そべりながら部屋のすべてのものに手が届くというくらいの本格的うさぎ小屋が月15万円以下で借りられるという物件もある。ニューヨーク州内でも郊外に行けば広い部屋が安く借りられるのだが、特に独身の若い世代はたとえうさぎ小屋といえども利便性のあるマンハッタンに住みたいという人々が多いようだ。  では、うさぎ小屋ブームがくる前はどうしていたかというと、米国では昔からルームシェアをして暮らすという考え方が一般的で、単身者は3~4ベッドルームの広いアパートをシェアして住んでいるケースが多かった。家賃を折半すれば負担がかなり抑えられるため多少家賃が高くても借りるシェアメイトたちが多く、それがアパートの家賃高騰をまねき、家賃が高過ぎて今度は家族世帯がアパートを借りられなくなるという現象が起きていたという。うさぎ小屋のワンルームを建設する背景には、全体的な家賃相場を下げる目的もあるそうだ。  ちなみにニューヨークでも日本と同様、結婚しない人たちが増えており、単身者向けの住居の需要はどんどん高まってきている。 <取材・文・撮影/水次祥子>
みずつぎしょうこ●ニューヨーク大学でジャーナリズムを学び、現在もニューヨークを拠点に取材執筆活動を行う。主な著書に『格下婚のススメ』(CCCメディアハウス)、『シンデレラは40歳。~アラフォー世代の結婚の選択~』(扶桑社文庫)、『野茂、イチローはメジャーで何を見たか』(アドレナライズ)など。(「水次祥子official site」) Twitter ID:@mizutsugi
バナー 日本を壊した安倍政権
新着記事

ハーバービジネスオンライン編集部からのお知らせ

政治・経済

コロナ禍でむしろ沁みる「全員悪人」の祭典。映画『ジェントルメン』の魅力

カルチャー・スポーツ

頻発する「検索汚染」とキーワードによる検索の限界

社会

ロンドン再封鎖16週目。最終回・英国社会は「新たな段階」に。<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

国際

仮想通貨は“仮想”な存在なのか? 拡大する現実世界への影響

政治・経済

漫画『進撃の巨人』で政治のエッセンスを。 良質なエンターテイメントは「政治離れ」の処方箋

カルチャー・スポーツ

上司の「応援」なんて部下には響かない!? 今すぐ職場に導入するべきモチベーションアップの方法

社会

64bitへのWindowsの流れ。そして、32bit版Windowsの終焉

社会

再び訪れる「就職氷河期」。縁故優遇政権を終わらせるのは今

政治・経済

微表情研究の世界的権威に聞いた、AI表情分析技術の展望

社会

PDFの生みの親、チャールズ・ゲシキ氏死去。その技術と歴史を振り返る

社会

新年度で登場した「どうしてもソリが合わない同僚」と付き合う方法

社会

マンガでわかる「ウイルスの変異」ってなに?

社会

アンソニー・ホプキンスのオスカー受賞は「番狂わせ」なんかじゃない! 映画『ファーザー』のここが凄い

カルチャー・スポーツ

ネットで話題の「陰謀論チャート」を徹底解説&日本語訳してみた

社会

ロンドン再封鎖15週目。肥満やペットに現れ出したニューノーマル社会の歪み<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

社会

「ケーキの出前」に「高級ブランドのサブスク」も――コロナ禍のなか「進化」する百貨店

政治・経済

「高度外国人材」という言葉に潜む欺瞞と、日本が搾取し依存する圧倒的多数の外国人労働者の実像とは?

社会