オリコがタイの中古車オートローン市場に参入。勝算は?

バンコク

「思っていたよりも都会だ」といわれるバンコク。この10年で走っている車が随分ときれいになった。

 急速に発展を遂げているタイのバンコクではここ数年新車の販売台数が右肩上がりだ。  もともと、バンコクの渋滞は名物と揶揄されるほどで、10年前はそれこそ1メートル動くのに1時間もかかることがよくあったほど(今はかなり改善されている)。タイ人に言わせれば、この渋滞の酷さは車の台数が多いからだと言うように、昔から車が多い土地ではあったが、ここ数年で新車販売台数はASEAN諸国で初めて100万台を超えて2012年と2013年には120万超を記録するほどに成長しているのだ(2014年はクーデターなどの政情不安があったこともあり、88.1万台)。さらに言えばタイ国自動車市場は、日系メーカーが90%以上と圧倒的な市場シェアを占めているのだ。 タイ新車販売台数 こうした状況を受けて、中古車市場の活況も予想されており、日本からはオートローン市場に熱い視線が注がれている。  2014年3月には日本の自動車ローンであるプレミアファイナンシャルサービスがタイの上場企業であるイースタン・コマーシャル・リーシングと中古車市場における金融ノウハウを交換するパートナーシップ契約を締結した。  そして、今年3月末には、信販大手オリエントコーポレーションはタイで中古車ローンを中心とする自動車ローン事業に参入すると発表したのである。  果たして日本企業のタイにおけるオートローン市場への参入に勝算はあるのか? タイ現地の様子を追ってみた。

中古車でもローン購入が必須のタイ

 タイでは新車が日本よりも高い。輸入関税や各種税金を加えていくと輸入車は日本の約3倍前後の水準、タイ国内生産車でも1.5倍以上はするのだ。  例えばホンダのホームページで確認するとCR-Vの20Gというグレードで2,571,429円になっている。タイで生産される同等のクラスのもので4,321,600円(3.7円/バーツで計算)、実に1.7倍になる。  ひとり当たりのGDPが4万ドルに近い日本よりも6000ドルに満たないタイの方が車が高いという事実。また、タイは所得平均を超えている層が全体の20%にも満たないほど格差のある社会である。  そんな事情もあって、タイ人も車はローンで買う人が圧倒的に多い。日本では自動車ローンは1.5~4%くらいの金利になっているようだが、タイでは2015年4月の時点では大体2.55~3.3%が金利の相場となっている。さらに、新車よりも中古車を購入したいと考える人々も多い。    とはいえ、タイでは元々車の値段が高いため、財産としての価値が高い。そのため、中古車の値段も高いし、値が下がりにくいのである。筆者の経験では金利込みで59万バーツ(約216万円)で買った新車が、4年乗って7万km走行で下取りに出したところ、34万バーツで売ることができたほど。つまり、中古車市場といえどもオートローンの存在は庶民にとっては必須なのである。  ところがである。中古車市場の顧客である中間層や低所得者層は高い中古車を知らずに高金利で買わされていることが多い。中古車業者の場合、正規ディラーの数倍の金利で銀行などがローンを組むからだ。  先の筆者が乗っていたものと同型同年式車を購入した会社員ノックさんに話を聞いたところ、 「37万バーツで買いました。頭金10万バーツ、月々7000バーツの72回払いです」  と教えてくれた。総支払額が60万バーツを超えるので、新車を買ったほうが得である……。しかし、金利を確認せず、提示された金額のみを見て彼女は購入を決断しているのだ。顧客側がこんなレベルなので、中古車の自動車ローンもいい商売になるのである。このへんはオリコの勝算は高いと言えよう。

大雑把なローンへの意識はリスク要因!?

 しかし、もちろんリスクもある。  ローンへの意識については、先述したような感じなので、要するに、タイ人のローンに対する意識というのはかなり低いのが現状。返せなくなったら買ったものを取り上げられる、くらいにしか思っていないのである。そもそも、会社員という、いわゆる中流層が確立してきたのもこの20年とかそんなものなので、定期的に決まった収入が入るという感覚に乏しい人が多く、家計の収支をコントロールできていないというのはごく普通に見られる。  印刷会社の配達員をする東北地方出身の男性は耳を疑うようなことを言う。 「来週ピックアップが納車されます。妻の親が頭金だけ出してくれたので、思い切ってローンを組みました。ローンは月々18000バーツです」  何が耳を疑うかというと、そう嬉しそうに語る彼の月収は2万バーツなのだ。  屋台での食事が1食あたり50バーツで済む国であるといっても、常夏のため熱によるパーツの消耗が早いし、ガソリン代だってかかる。妻も工場で働いているとは言え、どう家賃や光熱費を払って生活し、維持費を捻出するのか。そもそも銀行側はどんな審査をしたのか……。  そんな具合だから、銀行もいい加減なもので、筆者がタイでローンを組んだ際に銀行側から言われたのは、「毎月中旬くらいまでには払ってくださいね」程度で、具体的な入金日はまったく指定されていなかったほど。  このへんのゆるゆるな感覚はいずれ改善されていくだろうが、厳格な日本のローン会社にとってはリスク要因にもなりうるだろう。  ただ、タイの自動車市場はまだまだ延びるはずだ。  なにしろ公共の移動手段はバスや電車などがあるが、時間が読めないし、高架鉄道や地下鉄はバンコクの一部だけだし、タクシーはぼったくるし道は知らないしで、ストレスが溜まる。そんなタイでは、車は本当に便利なのだ。  そしてなによりも、「若者の車離れ」などとは無縁で、タイでは車はまだまだステータスシンボルであり、新車で買っても高額で売れるほど、中古車市場もまだまだ熱いニーズがあるのだから。 <取材・文・撮影/高田胤臣>
(Twitter ID:@NatureNENEAM) たかだたねおみ●タイ在住のライター。最新刊に『亜細亜熱帯怪談』(高田胤臣著・丸山ゴンザレス監修・晶文社)がある。他に『バンコクアソビ』(イースト・プレス)など
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