「ムチャぶりされた仕事」には、どう向き合うべきか?
2015.04.20
火天の城』(山本兼一/文春文庫)。主人公・岡田又右衛門は次々と繰り出される信長の無理難題に応え、城作りに邁進する。総棟梁として周囲の信頼もあつい。又右衛門の言動を参考に、ムチャぶりとの付き合い方を探ってみたい。
信長に呼び出された又右衛門は、前代未聞の城の図面を渡される。技術的な不安を抱きながらも、又右衛門は「建てましょう」と即決。その心の動きは次のように説明される。
<天竺南蛮はいざ知らず、大和六十六州では古今東西に例がない。できるかできぬかなど、考えるだけ無駄というものだ>
<できぬ――とは、大工棟梁として口が裂けても言えない言葉だ>
ムチャぶりの多くは断りづらい相手から発せられる。いずれやらざるを得ないなら早々に動き出すのが得策。手をつけなければ、退却の道筋も見えてこないのだ。積極的な姿勢を相手に見せつけることは、その後の交渉を有利に運ぶ材料にもなる。
ムチャぶりをする人の多くは自分の理屈に絶大の自信があり、他人の意見をはねつける傾向がある。では、どう説得するか。又右衛門の信長に対するアプローチはこうだ。
「口であれこれ申し上げますより、雛形をつくりまして、実際にしかとご覧にいれとうござります」
こう語った又右衛門は自分と息子それぞれが考えた城の案を模型に仕立てる。さらに信長の目前で火をつけ、どちらが安全性に優れているかを明示した。
「論より証拠」ということわざではないが、起こりうるリスクを具現化し、相手に聞く耳を持たせるのも大人の手腕だ。
又右衛門には以俊(こちとし)という息子がいる。以俊はいつまでも父・又右衛門から半人前扱いされることが不満だ。しかし、又右衛門は「この爺とてまだ半人前。番匠は誰でも死ぬまで半人前」だと諭す。
「自分が半人前と思えばこそ、木の力を借り、人の力を借りて屋形も天主も建てられる。一人でできることなど、なにもありはせぬ」
突然のムチャぶりに慌てふためくのも半人前であれば、しごく当然。一人で抱え込まず、周囲に助けを求めるのも一案だ。
ムチャぶりに遭遇すると、誰しも逃げ出したくなる。だが、ビジネスの現場では退却するにも「理由」が必要だ。前に進むことで活路がひらけることもあるだろう。身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ、である。
<文/島影真奈美>
― 【仕事に効く時代小説】『火天の城』(山本兼一) ―
「以上の件、よろしくお願いします」と付け加えるだけで、約束をとりつけたつもりか。そう言いたくなるようなムチャぶりをする人はどこの職場にも、どんな取引先にもいる
都合も聞かずに仕事をブン投げ、当然のように“最優先”を求める。要望やスケジュールがコロコロ変わるのに、振り回しているという自覚がないのも厄介。しかし仕事上、付き合わなければならない。こうした人々とどう折り合いをつけていけばいいのか。
織田信長の命により、安土城の築城に奔走した棟梁親子を描いた『迷わず手をつける
懸念材料を具体的に示す
周囲に助けを求める
『火天の城』 未會有の建造物の真相に迫る松本清張賞受賞作 |
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