「Unicodeとデジタル大蔵経」と題されたリー氏の発表
私たちが、パソコンやスマホを買ったその日から、今、世界で使われているほとんどの文字を使うことができるのは、世界標準の文字コード「ユニコード」の存在に拠る。 また、現在、インターネットのURL、FacebookやTwitterなど、ほとんどすべてのアプリやデバイスは文字入力に際し、「ユニコード」という世界統一規格を採用している。
そんな我々のネット生活と切っても切れない「ユニコード」の生みの親の一人、リー・コリンズ氏(元アップル社)が来日し、4月5日、東京で開催されていた、ダライ・ラマ法王と仏教研究の第一線で活躍する研究者らとの対話イベント「GOMANG ACADEMY OPEN SYMPOSIUM ~伝法の未来を考える~」(主催:一般社団法人 文殊師利大乗仏教会)に出席し、来日中のダライ・ラマ14世にこれまでのユニコードの取り組みについて紹介した。
元Apple社のエンジニアでUnicodeの生みの親、リー・コリンズ氏
リー氏は1980年代後半ゼロックスで働いていたことから、世界統一規格であるユニコードを提唱、その後アップル社に移籍。テキスト処理と国際化のチームのエンジニアの責任者を務め、アップルの中枢部にいた人である。
現在、私たちが毎日使っているスマホやパソコンでさまざまな文字を入力したり、絵文字やキモカワ顔文字(※)を入力できるのも、彼のおかげなのである。
※こんなのとか
アップル社では、MacOSやiOSのキーボード入力の責任者を務めていたこともある。iPhoneのフリック入力キーボードの、手書き認識の監修も彼が行うなど、まさに「現代の文字文化の神様」といってもいいような人物なのだ。
病床のジョブスは「私たちはこれをやるべきだ」と言った
真剣な面持ちでリー氏の話に耳を傾けるダライ・ラマ法王
2010年11月にダライ・ラマ14世が広島を訪問した時、密かにiOSにはチベット語のキーボードと文字が搭載されアップデートが開発者向けに発表された。
これは病床にあったスティーブ・ジョブズが「私たちはこれをやるべきだ」とリー氏たちのチームに対して送った一通のメールからほんの一か月で実現したものである。今回のシンポジウムを主催した日本人たちとチベット人の僧侶たちは、夜を徹して開発のためのテストとレポートをリー氏たちのチームに送った。
その後5年間でチベット人たちはTwitterやFacebookでチベット文字を使うようになり、いま、チベット人たちは、iPhoneで普通に「いまどこにいるの?」「何してるの?」「元気ですか?」といったメッセージを送ることができるようになった。
チベットのお坊さんたちは、経典を中古で安く買えるiPhoneやiPadに保存し、何十冊もの本を持ち歩かなくても、いつもでも経典の勉強ができるようになったのである。
今回のシンポジウムでリー氏は、「Unicodeとデジタル大蔵経」と題し、これまでの文字コードの取り組みや、特にこのチベット語をはじめとする世界中の仏教経典までもが、すべてのコンピュータやiPhoneやiPadなどのモバイルデバイスで、どんな人でも簡単に読むことができる時代になっていることを報告した。
かのスティーブ・ジョブズが深く尊敬していたチベット仏教の精神的指導者ダライ・ラマ法王に、リー氏は仏教の経典『華厳経』の一節である、「神々の言葉、龍の言葉、夜叉の言葉、人間のことばなどすべての生きとして生けるものの言葉で、私は説法をしたい」という文章を引用しつつ、次のように語った。
「仏教では人間の言葉だけではなく、すべての生物の言葉で愛と思いやりを語りたい、ということが説かれています。私もこのユニコードの取り組みによって少なくとも世界中のすべての国の言葉、いまはもうあまり使われなくなった文字や言語を大切にし、どんな新しいデバイスが出現しても、私たち人類がこれまで伝えてきたことに、そこで誰もがアクセスできるようにし続けることを大切にしたいと思い、努力しました」
その言葉を聞いたダライ・ラマ法王は、「私はそういった機械は自分ではまったく使いませんが、あなたのやってきたことは本当に素晴らしいことで、国も失った私たちチベット人にとっては本当にありがたいことです。とても感謝しています」とリー氏にねぎらいの言葉をかけたのであった。
⇒【後編】「コンピュータにはこれまで以上の革命的な発展が見えてこない」(
https://hbol.jp/32884)に続く
<取材・文/野村正次郎+小原美千代>