「所得税」「相続税」最高税率引き上げの意味とは?――現役財務官僚が語る日本財政の真実

相続税が課税されやすくなった

高田英樹氏

高田英樹氏

 前回に引き続き、日本の税制構造について見ていきたい。  最近の税制改正で人々の生活に大きな影響を与えたのは、何といっても2014年4月の消費税率引上げだが、本年(2015年)から、所得税と相続税について実施された改正も、税制構造を考える上では重要だ。  所得税については、2015年以降、最高税率が40%から45%に引き上げられた。もっとも、この最高税率が適用されるのは、課税所得4000万円超のみなので、ごく少数の人を除いて影響はなく、あまり報道もされていない。  相続税については、税率構造が6段階、最高50%であったものが、8段階、最高55%へと引き上げられた。また、基礎控除(相続財産から差し引かれる金額)が、5000万円+法定相続人一人当たり1000万円から、3000万円+法定相続人一人当たり600万円へと縮小された(つまり、相続税が課税されやすくなった)。  特に後者の基礎控除縮小は、これにより従来は相続税の対象とならなかった人にもかなり範囲が広がる可能性があるため、各種メディアでも最近注目された。  これらは、消費税率引上げと共に、「税制抜本改革」の一環として決定されたものである。

新しい日本にふさわしい税制全体の姿

 消費税率の引上げによる負担増ばかりが注目されがちだが、消費税率引上げは社会保障の充実・安定化のための改革と表裏一体を成すものであり、「社会保障と税の一体改革」という政策パッケージの一部であることはこのコラムでも何度か述べてきた。  そして、「社会保障と税の一体改革」は、「社会保障改革」と「税制抜本改革」の2本柱から成るものであるが、「税制抜本改革」も、消費税だけではなく、税制体系全般にわたる改革のパッケージなのである。  今回の「社会保障と税の一体改革」の内容を定めた「社会保障・税一体改革大綱」(2012年2月)では、この税制抜本改革の趣旨について、「我が国の経済・社会構造と内外の環境の変化に対応し、新たな日本にふさわしい税制全体の姿を実現することを目指す」ものとしている。  そして、こうした経済・社会構造の変化に対応した税制の姿については、2007年11月の政府税制調査会答申「抜本的な税制改革に向けた基本的考え方」で、基本的な方向性が示されている。  すなわち、(1)社会保障財源確保のため、消費税率を引き上げる、(2)格差是正等の観点から、所得税・相続税について、所得・資産の再分配機能を高める、(3)経済活性化のため、課税ベースを拡大しつつ、法人税率を引き下げる、という、税制抜本改革の骨格は、日本の経済・社会構造、国際環境等の分析を踏まえた、長年にわたる検討と議論の結晶なのである。

ピケティブームで格差が議論に

 税制は、様々な税目が組み合わさって体系を作っている。それぞれの税目には、固有の特徴と役割がある。個別の税目だけを見るのではなく、税制体系が全体としてどのような機能を発揮しているのかに着目することが重要だ。  例えば、消費税は低所得者の負担が相対的に大きくなる「逆進性」があることから、望ましくないという見方がある。だが、累進性を有する所得税と組み合わせることにより、税制全体としては所得再分配機能を発揮することができる。  最近、フランスの経済学者ピケティ氏の著作がブームとなり、格差問題についての議論が盛んになっている。この点、所得税については、近年、前述した最高税率引上げの他に、給与所得控除の上限設定など、高所得者への課税を強化し再分配機能を高める方向での改正がなされており、相続税についても、同様の方向となっている。  そしてさらに言えば、消費税についても、日本の場合は社会保障目的税となっており、その税収が社会保障給付に用いられることによって、低所得者を支援する側面がある。  格差是正や所得再分配の問題は、税制全体、さらには歳出を含めた財政全体を見て議論することが必要だ。【了】
(※)本稿は個人としての意見であり、組織を代弁するものではありません。 【高田英樹(たかだ・ひでき)】 1995年に東京大学法学部卒業後、財務省(旧大蔵省)に入省。1997年から99年に英国留学。2003年から06年に、英国財務省で勤務。2009年に民主党政権下で新設された「国家戦略室」の最初の職員として抜擢された。主計局、主税局等で、主に財政政策に携わっている。個人blogに日英行政官日記(http://plaza.rakuten.co.jp/takadahmt)がある。 記事提供:ムーラン (http://www.mulan.tokyo/) 新世代のビジネス・ウーマンのためのニュースサイト。「政策決定の現場である霞が関、永田町の動向ウォッチ/新しいビジョンを持つ成長途上の企業群が求める政策ニーズを発掘できるような情報/女性目線に立った、司法や経済ニュース」など、教養やビジネスセンスを磨き、キャリアアップできるような情報を提供している ※本記事の関連記事も掲載中 【日本財政の『真実』】(1)~2015年度予算を読み解く http://www.mulan.tokyo/article/10/
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