日本会議を語る際、「陰謀論」は不要だ――シリーズ【草の根保守の蠢動 第4回】

富士山

photo by Midori( (CC BY 3.0) )

 本シリーズも今回で連載6回目(途中番外編2編を含む)を迎えた。このシリーズは、安倍内閣の8割以上の閣僚を支え、各方面で活発な運動を展開する日本会議の全体像を明らかにし、その問題点と日本会議に支えられる安倍政権の危うさについて指摘することを目的としている。  その手始めとして、前回、「日本会議に集まる宗教団体の面々」と題し、日本会議に集まる宗教団体の多さとそれら宗教団体が教義や信仰対象の違いを超えて連帯する様子をお伝えした。

「宗教と政治」を語る難しさ

 おかげさまで前回の記事もTwitterやFacebookなどで多数の反響を頂戴した。しかし中には、「カルトに支配されている!」「宗教右翼の陰謀だ!」など、いささか的外れな反応も含まれていた。  今後冷静な議論を進め、日本会議を正確に分析していくためにも、この際、こういった幼稚で拙速な陰謀論的な認識を徹底的に排しておきたい。  まずなによりも、宗教団体が政治的活動を行うことは一切自由であり、なんら問題がないという点を再度認識しておこう。多数の宗教団体が日本会議を通じて政治活動をすることそのものは、何も問題ない。  政教分離の原則というのは宗教団体の政治関与を禁止するものではなく、政府による宗教的行為を禁止するものだ。  また、「あの連中はカルトである」と言い切ってしまうことも危険だ。  そもそも日本には「なにをもってカルトとするか」についての社会的に共有される基準や定義がない。有り体にいえば各々が「自分の気に食わない宗教にカルトというレッテルを貼っている」というのが実態だろう。確かに日本会議に集まる宗教団体の中には、社会的通念からいえば奇異とも言える教義や儀式をおこなう団体もある。また教義の中に非科学的な主張がある団体も存在する。しかしそれをもって「カルトである」と断じるわけにはいかない。カルトという言葉が反社会的勢力とほぼ同義語として使われる用語である以上、その使用には慎重を期すべきだ。

「生長の家」に関する誤解

 このような幼稚で拙速な陰謀論的解釈は現実に様々な誤解の温床になりかねないので注意が必要だ。日本会議と宗教団体の関わりについて、最も広く見受けられる誤解が、「生長の家」と日本会議の関連についての誤解だろう。  Wikipediaの「日本会議」ページは、この誤解に基づいて、つい最近の版(2015年3月9日版)まで、「生長の家」を日本会議参加宗教団体として紹介していた。    おそらく、この誤解の出所は月刊誌「選択」2006年10月号に発表された「日本会議 –安倍の知られざる基盤」という記事であろうかと思われる。この記事は、これまで一般に出版された分析記事の中でも最も正確かつ広範に日本会議の内部と歴史を分析した良質の記事ではある。だが、「生長の家」の創始者・谷口雅春氏の思想が日本会議の政策に与える影響を指摘する一節の書きぶりは、あたかも「生長の家」と日本会議が現在も密接な関係を保持しているかのような書きぶりになってしまっている。  だが実態は違う。  現在の日本会議の役員名簿の中には、「生長の家」関係者の名前は認めらない。  また、現在の「生長の家」は、電気自動車充電ステーションの全国展開や教団本部がISO14001認証を所得するなどエコロジー路線を前面に押し出す教団になっている。さらに、安倍政権の解釈改憲に異議を唱えたり戦争犯罪の追及や従軍慰安婦問題に力を入れたりと、極めてリベラルな主張も展開している。いまや「生長の家」は「エコロジーリベラル」と言っていいほどの教団になっており、日本会議の主張とは徹底的に相容れない教団になっているのだ。  前掲の「選択」の記事が指摘するように、「生長の家」と日本会議には因縁浅からざるものはある。また、本連載でも今後この「因縁」を主軸に、日本会議の歴史を分析していくのだが、今現在の「生長の家」と日本会議には一切の関係がないことは、改めて指摘しておきたい。 ⇒【後編】『「設立宣言」「設立趣意書」からみる日本会議の系譜』(https://hbol.jp/31971) <文/菅野完(Twitter ID:@noiehoie)>
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