法人税の公平性を考える――現役財務官僚が語る日本財政の真実
2015.03.25
(※)本稿は個人としての意見であり、組織を代弁するものではありません。 【高田英樹(たかだ・ひでき)】 1995年に東京大学法学部卒業後、財務省(旧大蔵省)に入省。1997年から99年に英国留学。2003年から06年に、英国財務省で勤務。2009年に民主党政権下で新設された「国家戦略室」の最初の職員として抜擢された。主計局、主税局等で、主に財政政策に携わっている。個人blogに日英行政官日記(http://plaza.rakuten.co.jp/takadahmt)がある。 記事提供:ムーラン (http://www.mulan.tokyo/) 新世代のビジネス・ウーマンのためのニュースサイト。「政策決定の現場である霞が関、永田町の動向ウォッチ/新しいビジョンを持つ成長途上の企業群が求める政策ニーズを発掘できるような情報/女性目線に立った、司法や経済ニュース」など、教養やビジネスセンスを磨き、キャリアアップできるような情報を提供している ※本記事の関連記事も掲載中 【日本財政の『真実』】(1)~2015年度予算を読み解く http://www.mulan.tokyo/article/10/前回までのコラムで、2015年度予算の特徴を解説したが、今度は税制に目を向けてみたい。 2015年度税制改正の最大の柱は、「成長志向に重点を置いた法人税改革」だ。政府の方針として、今後数年間で、現在34.62%の法人実効税率を20%台まで引き下げることを目指しており、今回、その第一弾として、2015年度に32.11%、2016年度に31.33%へと、約3.3%ポイントの引下げを行うことを決めた。 他方、税率の引下げと併せて、「課税ベースの拡大」等の法人税改革を行うこととしている。これは、税率引下げの財源を確保するのみならず、法人課税の構造をより「成長志向型」にすること、すなわち、企業が収益力を向上させるインセンティブを強化することを目指している。 今回、法人税率の引下げを行うこととした背景として、日本の法人実効税率が諸外国と比べて高いとの指摘があった。法人実効税率とは、国の法人税と、地方における法人事業税等の法人課税を合計して、法人が直面する税率を算出したものである。 日本では、現在、国・地方を合わせた法人実効税率(標準税率による)は34.62%となっている。これは、アメリカ(カリフォルニア州の場合で40.75%)よりは低いが、フランス(33.33%)やドイツ(29.59%)より高い。 また、アジアの国は、中国25%、韓国24.2%、シンガポール17%と軒並み低く、先進国でも、イギリスは21%とかなり低い。 しかし、税率のみで比較するのは一面的との指摘もある。日本の場合、法人所得に占める「課税ベース」の割合、すなわち、法人所得のうち法人課税の対象となる所得の割合は、諸外国と比べて顕著に低い(2010年の比較で、日31.9%、米49.3%、英63.4%、独48.9%、仏47.0%、中52.4%、韓61.2%)。これに税率をかけたものが実際の税負担になるため、税負担の大きさでいえばそれほど高くはないとの見方もできる。 日本の法人課税の課税ベースが狭い要因としては、様々な税制上の仕組みによって、利益や税額を圧縮できることが挙げられる。その結果として、日本では、法人税を支払っている「黒字企業」が全体の3割弱しかなく、7割超の企業が、赤字法人(欠損法人)となっている。最大の柱は法人税改革
3割の企業しか法人税を支払っていないというのは、諸外国と比べても極めて偏っている。しかも、欠損法人のうち4割程度は、当期で利益を上げながらも、過去の欠損金による繰越控除によって、法人税を負担しない状況となっている。 このように、一部の黒字企業、すなわち収益力のある企業に税負担が集中することは、公平性の観点からも、競争力強化の観点からも望ましくない。そこで今回、税率を引き下げつつ課税ベースを拡大することによって、より多くの企業が負担する方向へと転換を図っている。 課税ベース拡大措置のうち特に大きいのは、欠損金繰越控除の見直しだ。現在、最長9年にわたり、過去の欠損金を繰り越して課税所得を相殺できるが、相殺できるのは所得の80%までとなっている。 この上限を、2015年度から65%に、2017年度から50%に引き下げる。(ただし、繰越可能期間は10年に延長される。) これにより、過去に多額の欠損金を抱え、かつ利益の少ない企業は、欠損金による控除を使い切れないまま期限切れとなる可能性が高くなるため、早期に利益を拡大するインセンティブが生まれる。 また、地方税における改革として、外形標準課税の拡大を行う。 現在、地方における法人事業税の4分の1は、法人の所得ではなく、付加価値や資本に一定率をかける外形標準課税を行っている。この割合を、2015年度から8分の3に、2016年度から2分の1に引き上げる。(その分、所得にかかる税率は下がる。) 外形標準課税は、赤字の企業にも課される。したがって、赤字でこれまで法人税を全く払っていなかった企業は、税率引下げの恩恵はない一方、外形標準課税の拡大により、純増税となる場合がある。他方、収益を上げている企業の場合、税率引下げの恩恵の方が上回るため、ネットで減税となる。一部の黒字企業に税負担が集中
なお、これらの課税ベース拡大措置は、資本金1億円超の「大法人」のみを対象としており、中小法人については税率の引下げのみが適用される。 今回決定した法人税率引下げと、課税ベース拡大措置は、全体としてほぼ税収中立となっており、財政規律にも配慮している。(ただし、欠損金繰越控除の上限引下げが2段階に分けて行われるため、最初の2年度は減税超過となる。) このように、課税ベース拡大により財源を確保しつつ法人税率を引き下げてきたのは、イギリス、ドイツ、フランスといった国々でも同様だ。 以上のように、今般の法人税改革は日本の立地競争力と企業競争力の向上を図るものであるが、税制はあくまで、競争力を左右する諸要素の一つに過ぎない。企業本来の「稼ぐ力」を高めることが何より重要だ。 また、日本企業の内部留保は今や300兆円を超えている。法人税率引下げによって浮いたお金が企業の内部に停滞したままでは、経済の好転にはつながらない。 企業が増加した利益を賃上げや投資に振り向け、「経済の好循環」を実現することこそ、この税制改革が目指すところである。【了】中小法人については税率の引き下げ
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