受動喫煙問題って、そもそも地方議会で論ずるテーマなのか?――美唄市禁煙条例案で考える
市町村レベルでは全国初として注目されていた北海道美唄市の『受動喫煙防止対策条例』。市では20日まで開かれる定例市議会での条例案上程を目指していたが、17日になって見送ることを決定した。今後は市民の意見を十分に踏まえた上で、来年度中の制定を目指すという。
前回の記事(※)でも指摘したが、美唄市では独自税収の1割近くを地方タバコ税で賄っている。よって市民が禁煙条例を遵守すればするほど税収は減っていき、それは必然的に市民サービスの低下につながることになる。その悩ましい現実を市民に周知徹底した上で条例を施行しなければ、後々新たな問題が生じることになるだろう。
※地方自治体の「理念条例」っていったい何?――北海道美唄市の禁煙条例案 https://hbol.jp/26272
今回の美唄市の例を契機として、今後ほかの市町村でも受動喫煙防止条例について検討されることもあり得る。
「ただ、禁煙エリアの範囲や罰則規定の有無など、内容が市町村ごとにバラバラになることは十分に考えられます。さらに都道府県レベルでも別途条例が定められるようなことになれば、国内の喫煙ルールに関して相当な混乱を招くはずです。タバコの規制をするならするでその内容を一元化するべきで、その意味でも受動喫煙防止対策はやはり国マターでやるべき事案でしょう」(須田氏)
そもそも地方議会は、まず地域性に基づいた諸問題を優先的に議論すべき場。”精神”も大切だろうが、喫煙に地方特性がない以上、市町村議会がエネルギーを使って議論すべき問題とは思えない。とりわけ地方では地域住民の関係性も密接なだけに、住民同士の利害関係をどう調整するかで大きな困難もともなうだろう。そうしたことに限られた市のエネルギーを割かざるを得ないとなれば、それは市政にとってもマイナスなのではないか。 <取材・文/杉山大樹>
条例制定に積極的な高橋幹夫市長は、罰則規定などのない受動喫煙防止条例を“精神条例”と呼び、急激な変化をもたらすものではないとして理解を求めていたが、昨年12月に『受動喫煙防止ガイドライン』を制定したばかりで、あまりに拙速だとの声も一部で上がっていた。
美唄市の受動喫煙防止条例に関する一連の動きについて、禁煙問題に詳しいジャーナリストの須田慎一郎氏は次のように語る。
「市町村レベルで初といわれますが、すでにタバコのポイ捨て禁止条例などは各地で作られていて、こうした条例は当然出てくるだろうとは予想できました。ただ、現時点で実効性のない条例とはいっても、一旦枠組みを作って公式に規制を設けるとなると、あとは運用の仕方次第という面があります。現市長が“精神条例”と言っても、彼がいつまでも市長を務めるわけではない。条例の制定によって市民の権利はどうなるのか、飲食店などの経済的影響はどうなるのかなど、今後考えられる影響にも思いを巡らす慎重さは必要だったのではないかと思います」
美唄市は当初、昨年末に制定した『受動喫煙防止ガイドライン』によって条例の策定意図は認知されているとしてパブリックコメントは実施しないとしていた。ところが、全国的に注目されることとなったためか、結果的にパブリックコメントを募集したところ実に554件の意見が寄せられた。美唄市では市政案件に関するパブリックコメントを求めても大半は意見ゼロ、あってもせいぜい数件というのが通常で、この数字は異例のことだ。
それはさて置き、このパブリックコメントでは条例制定に賛成との意見が462件と8割以上を占めているのだが、その一方で、岩見沢地方たばこ販売協同組合などが慎重な検討を求める616人分の署名を市議会に提出したという。この事実をとってみても、条例に対する市民コンセンサスがとれていないことが見て取れる。
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