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クラフトビールブームがここ最近ブームになっているのはすでにハーバー・ビジネス・オンラインでもお伝えしている通りだが、ドラマ『マッサン』のヒットを受けて地ウイスキーにも注目が集まっている。3月17日、帝国データバンクはこうしたクラフトビールや地ウイスキーを作る小規模蒸留所・醸造所に関する実態調査を発表した。
調査によれば、ウイスキー市場は、サントリー、ニッカウヰスキーの2社で市場の約9割を占めており、ウイスキー専業、少なくとも売上の一定割合をウイスキーが占める“地ウイスキーメーカー”は数が少なく10社に絞られるという。
というのも、89年の酒税法改正によって2級ウイスキーが値上げされたことによって訪れた「冬の時代」に、地ウイスキーメーカーの廃業や倒産、事業譲渡があったからだ。しかし、ハイボール人気での若者需要の喚起などによってウイスキー市場も底打ちに転じ、小規模な地ウイスキーメーカーも世界的に名を知られるメーカーなども登場しつつある。
同調査では、特にそうした気を吐くメーカーとして、以下の3社の名前を挙げている。
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本坊酒造:92年にモルト原酒の蒸留を止めたが、2011年に19年ぶりに再開、以降、「マルスウイスキーツインアルプス」など普及価格帯から高価格の限定品まで積極的な商品展開を行っている。ワールドウイスキーアワード(WWA)2013ブレンディッド・モルト部門でワールドベスト賞を受賞したシングルモルト「マルスモルテージ3+25 28年」など、欧米市場での評価も高い。屋久島の焼酎蔵で熟成した新商品も投入予定であるなど、新しい試みも目立つ。
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江井ケ嶋酒造:戦間期に洋酒製造免許を取得した老舗。89年の酒税法改正で国内出荷量が9割減となる大ダメージを受けたが、輸出によって冬の時代を耐えた。現在、「あかし」ブランドのウイスキー製造部門は収益事業に成長している。5年貯蔵の「シングルモルトあかし」や、年2回のシングルカスク(ひとつの樽から瓶詰めしたウイスキー)も品薄。仕込みの量は既に4-5年前から増やしているという。
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ベンチャーウイスキー:国内唯一のウイスキー専業メーカー。創業者の肥土伊知郎(アクト イチロウ)氏は(株)東亜酒造の創業者の孫であり、父とともに2000年9月の民事再生法申請も経験した。同社は2004年9月に設立され、いまや「イチローズ・モルト」は世界的な名声を博している。
同リポートでは、各社とも設立時期こそ異なるが、市場低迷期に粘り強く事業を続け、むしろ原酒の長期貯蔵によって価値を高め、品質を重視する一方で需要予測に長け、海外市場に活路を見出しそこで得られた評価を国内市場でのプロモーションに利用するしたたかさを持っているとしている。
また、蒸留後、最低3年の貯蔵、熟成が必要なウイスキー製造は投資から回収までに長い時間を要するビジネスだ。しかし堅展実業(株)(東京都千代田区)、ガイアフロー(株)(静岡県)など、新たな蒸留所設立の動きも出てきていることは注目すべき点だという。
主な地ウイスキーメーカー10社●帝国データバンク資料より
同リポートによれば、日本市場ではデフレ下であっても「本物」を受け入れる余地があり、世界でもまた日本のものづくりは認められているとし、景気回復・円安局面でこうした傾向が一層強まるはずだと予測している。しかし、その反面、酒類製造には設備投資に多額の費用がかかる装置産業であり、投資回収には長期を擁するため、世界を市場とする産業育成のためには酒税法の柔軟な運用や資金調達面でのよりいっそうの環境整備などが必要になってくるだろうとしている。
参照:帝国データバンク
http://www.tdb.co.jp/report/watching/press/p150308.html
<文/HBO取材班>