「全生徒無料配布」を掲げたタイの教育用タブレット配布政策の微妙な現状

高田胤臣
タブレット

タイの教育用無料タブレットの梱包

 本当に教育に効果があるのかについては賛否両論あるようだが、数年前からアメリカやイギリス、韓国などでは教育現場にダブレットの導入が始まっている。

 日本でも2014年に佐賀県が導入をしたが、あまりメジャーではないWindows 8 Proタブレットを5万円で買わされたという苦情や、小学生が使用する教材用タブレットの画面にバナー広告が入っていたりと教育効果以前のトラブルも散見される。

 政情不安などでなにかと話題になるタイでも、2012年から『One Tablet Per Child(OTPC)』というプロジェクトが始まっている。

 インラック前政権が始めたこのプロジェクトはその名の通り、ひとりの子どもに1台のタブレットを渡すことを目標に、タイの小学生1年生を対象に無料配布するものだ(地域によっては中学1年生にも配布される)。初年度はおよそ86万台が配布されたとされる。翌年は170万台と発表されているが、同年の9月ごろから2014年5月まで、プロジェクトを始めたインラック政権に対する反政府デモやクーデターなどでタイは荒れており、結局どれくらいの台数がどこに配布されているのかが不透明になっている。

 実際、筆者の長女は2013年度が小1だったのでタブレットを受け取れるはずだったが、2015年2月になってやっと配布されたほどだ。

 初年度に配布されたタブレットは中国の深センのメーカーに発注され、1台82ドルということだった。

 スペックはアンドロイド4.7インチの画面、内蔵メモリーが8GBとなっている。もちろんWi-Fiもあるし、カメラも200万画素のものが装備されている。その後OTPCのホームページでは特にスペック面の変更はないので、恐らく今もほぼ同じ仕様で配布されているようである。

 タブレットの梱包もOTPC用のものになっているので教育現場専用なのかと思えば、YouTubeなどが市販のタブレットと同じように見ることができる。ブラウザもあくまでノーマルなのでメールアカウントさえあれば通常通りに使える。実際に触った感じでは動作スピードも中国製の安物のタブレットとなんら変わるところはなかった。

 日本では導入に当たって本当に教育現場にふさわしいのかなどといった議論が積極的に交わされているようだが、タイではその様子はほとんど見られない。むしろほぼ話題になっていないのか、ネット検索をしても導入開始直前直後の2012年の記事しか見られないほどだ。

タブレット配布の理念にインフラが追いつかず

 そもそも現場ではタブレットをどう見ているのか。バンコクの私立小学校で教壇に立つサクンタラー教諭に話を伺った。

「OTPCでは小学校1年生に無料配布され、3年生の授業まで使用します。一昨年と去年は政治問題で配布状況はやや悪かったですが、徐々に予定通りの動きに戻っています」

 サクンタラー教諭によれば、政府はIT化していく社会においてタブレットなどの機器に慣れておくべきだという方針でタブレットが導入されたという。

「ただ、学校によってはWi-Fiを設置できる予算がありません。ですので、タブレットには最初から算数、国語(タイ語)、科学、社会、コンピューターの5教科のプログラムが入っており、それを見ながら授業を進めることになっています」

 バンコクならWi-Fi設置はまったく問題はないが、電気すら通っていないような場所さえある田舎ではWi-Fiは環境的にも金銭的にも無理がある。多くの学校がIT化が目的と理解しながらも、アナログに毛が生えたレベルでしか運用できていないようだ。

 タイでは3月から5月中旬が年度の変わり目となる夏休みだ。学校では政府のプロジェクトとして動いていることから、生徒やその親による転売や紛失、不注意による損傷を防ぐため、配布したばかりにも関わらず休みを前に生徒からタブレットを回収した。

 これらは次の新年度が始まってから生徒に返却されるという。

 恐らくエアコンの効いた部屋に保管ということはないだろう。2か月間も灼熱の部屋に放置された中国製タブレットがしっかりと動くのかどうか。新年度が楽しみである。<取材・文・撮影/高田胤臣>

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