日本会議に集まる宗教団体の面々――シリーズ【草の根保守の蠢動 第3回】

Tawashi2005

※写真と本文は関係ありません photo by Tawashi2005(CC BY 2.1 JP)

 これまでの連載で、安倍内閣の閣僚のうち8割以上を支えるまでとなった規模の大きさや、各地の地方議会で意見書を採択させるまでの運動の活発さ、そして、「改憲」「男女共同参画反対」「靖国公式参拝」「自衛隊海外派遣」などいわゆる「右傾化コース」の運動目標を掲げる様子などを通じて、日本会議の概略をお伝えしてきた。  日本会議の活動や政界との関わりが指摘される際、必ずと言っていいほど言及されるのが、日本会議と宗教団体の関係だ。  もっとも顕著な例は、「日本最大の右派組織 日本会議を検証」と題した2014年7月31日付の東京新聞による特集記事だろう。この記事では、日本会議の来歴分析や識者のコメントという形で、日本会議と宗教団体との関連を重ねて指摘している(佐藤,篠ケ瀬,林,2014)。

日本会議本部の役員に名を連ねる宗教団体関係者たち

 日本会議側も宗教団体との関係を特段否定するわけでもない(※1)。WEBに公開されている日本会議の役員名簿(http://www.nipponkaigi.org/about/yakuin)をみてみよう。表1は、この役員名簿を元に、筆者が作成したものだ。 ⇒【画像】はこちら https://hbol.jp/?attachment_id=28321

表1:日本会議役員名簿(宗教関係者を筆者が編みかけした)

 この名簿をみると、顧問から事務局長まで、役員総数62名のうち24名が宗教関係者によって占められていることがわかる。役員の三分の一以上が宗教関係者という計算だ。日本会議は極めて宗教色の強い団体であると言えるだろう。

日本会議に集まる宗教団体の活動実態

 これらの宗教団体関係者は、「名義貸し」「つきあいで名前を連ねている」というだけではない。日本会議に役員を送り出している宗教団体は、実際に、日本会議の行う数々の運動の現場で、積極的な関与をみせている。  過去に実施された日本会議の行うイベントの受付では、国柱会、倫理研究所、神社本庁、IIC(霊友会)、仏所護念会、念法真教、崇教真光等の各種宗教団体別の受付窓口が設けられていることが確認されており、集会参加者を組織動員していた様子がうかがえる(上杉,2003,p.53)。  組織動員は、集会やイベントの頭数を増やすためだけに行われているわけではない。  連載第2回でお伝えしたように、日本会議の運動方針の特徴は活発な地方活動にある。この地方活動でも地方議会や行政に請願や署名などを働きかける運動の最前線を担っているのは、宗教団体が動員した運動員たちだ。 ※第2回 日本会議は何を目指すのか? https://hbol.jp/26283  山口県宇部市では、市が提案する男女共同参画条例に対する反対運動を、新生佛教教団系の出版会社・日本時事評論社が積極的に主導していた(山口)。  また、愛媛県で「新しい教科書をつくる会」(※2)が出版する歴史教科書が採択された際には、神社本庁、倫理研究所、キリストの幕屋、モラロジー研究所など、日本会議に参画する宗教団体の活動が確認されている(上杉,2003,p54)。  条例反対や教科書採択など地方自治体での活動にとどまらず、国政選挙の選挙運動においても、日本会議に参加する宗教団体の活動は観察されている。  かつて、「新しい教科書をつくる会」で日本会議周辺の人々と交流の深かった西尾幹二氏は、自身のブログに、2005年の衆議院選挙における日本会議と日本会議に参画する宗教団体の活動の様子を克明に記録している(http://www.nishiokanji.jp/blog/?p=249)。少し長いがその一部を引用しよう。 ――――――――――――――――――  8月15日の靖国の境内で日本会議事務局総長の椛島(かばしま)有三氏に私が今度の選挙で守りたい六人の名を挙げた。椛島氏の意中の名とぴったり一致した。私は応援に行きたいと言った。協力しましょう、と氏は言った。  日本会議やつくる会やモラロジーやキリスト教幕屋や自民党県連、市議会議員、その他関連団体の方々が行く先々で私を迎えて、案内してくれた。椛島氏や同会議の松村氏が大分で待っていて下さった。(※太字箇所は筆者による。西尾,2005) ――――――――――――――――――  これらの事例を踏まえれば、日本会議に参加している宗教団体は、単に「名義貸し」や「つきあい」という範疇を超えて、極めてアクティブに運動に参画していると言っても過言ではないだろう。

日本会議に集まる宗教団体の多様性

 ここで改めて、どのような宗教団体が日本会議に参加しているかを、団体名ベースで見てみよう。表2は日本会議本部の役員名簿や日本会議の地域組織の役員名簿からよみとれる宗教団体を一覧にしたものだ。 ⇒【画像】はこちら https://hbol.jp/?attachment_id=28322

表2:日本会議への参加および日本会議内での活動が確認されている宗教団体一覧

 この表でとりわけ目に付くのは、仏所護念会や霊友会など、明治以降に生まれた、いわゆる「新宗教」とよばれる宗教団体の比率の高さだ(※3)。また、神社神道系 教派神道系 新教神道系 仏教系 諸教系と、実にさまざまな宗派にまたがるという点も特徴的といえるだろう。  もし仮に、日本会議に参画する宗教団体が、同一の宗派や信仰対象を共有する宗教団体ばかりであれば、「似た者同士の親睦会」のような意図も推測できるかもしれない。また同一の宗派や信仰対象の利益に沿うように活動しているのだと推測することも可能だろう。  しかし、伝統と格式を誇る古来からの宗教(神社神道の各団体や延暦寺を始めとする天台宗など)と、明治以降成立したいわゆる「新宗教」が肩を並べるなど、明らかに統一性が見られない。また、霊友会と、霊友会から分派した仏所護念会など、信仰の現場では信者層の奪い合いになるような団体も同居している。  教義も信仰対象も信者層もそれぞれ違い(そして時には奪い合う)各種宗教団体の顔ぶれをみれば、「信仰上の共通目的を有しているため参画している」とは言い難い(※4)。  だが現実に、彼らは日本会議という団体の中で同居している。  そして、地方自治体への働きかけや選挙運動で共同作業を行ってまで、日本会議の運動を支えている。  なぜ彼らは、宗派や信仰対象や伝統の違いを超えて、日本会議の元で糾合できるのか。  なぜ彼らは、足並みをそろえて日本会議の元で活動ができるのか。  この問いの答えを探るため、次回は、彼らが日本会議の元に糾合するに至った経緯を、1960年代にまでさかのぼって検証する。「宗教右翼」ともいうべき、彼らの行動の軌跡が浮かび上がってくるはずだ。 【文献目録】 魚住昭.証言 村上正邦 我、国に裏切られようとも.東京:講談社,2007. 佐藤圭,篠ケ瀬裕司,林啓太.“日本最大の右派組織 日本会議を検証.”東京新聞,2014年7月31日. 山口智美.“地方からのフェミニズム批判.”山口智美,斉藤正美,荻上チキ.社会運動の戸惑い.東京:勁草書房,2012.49-106. 松野純孝.新宗教辞典.東京:東京堂出版,1984. 上杉聡.“日本における「宗教右翼」の台頭と「つくる会」「日本会議」.”季刊 戦争責任39[2003]:53. 西尾幹二.若い三候補者応援の旅.2005年8月31日.2015年3月8日. 文化庁.宗教年鑑 平成25年版.東京:ぎょうせい,2014. ※1)  上述の東京新聞の記事に対し、日本会議は「「東京新聞」7月31日付「こちら特報部」記事への見解」と題する抗議文を出している(http://www.nipponkaigi.org/opinion/archives/6977)。しかしこの中で日本会議は「宗教右派」というレッテルに抗議しているものの宗教団体との関連を否定してはいない。 ※2)  「新しい歴史教科書をつくる会」には日本会議系とは言い切れない点にご留意いただきたい。「新しい歴史教科書をつくる会」と日本会議との関連については今後の連載で言及する予定である。 ※3)  日本会議と宗教団体の関連が取りざたされる際、「生長の家」の関与が言及されることが多い(Wikipediaの記事 https://ja.wikipedia.org/wiki/日本会議 や、リテラに掲載された「安倍内閣と一体の右派組織「日本会議」究極の狙いは徴兵制だった!」と題する記事 http://lite-ra.com/2014/09/post-453.htmlなど)。しかし、現在の「生長の家」と日本会議の関連を直接裏付けるものはない。ただし日本会議の歴史と生長の家は極めて関連深い事は事実であり、本連載でも回を重ねて解説していく予定だ。 ※4)  ここで注意を促したいのは、「宗教団体が国を乗っとろうとしている」といういわゆる「陰謀論」的な見地に立つことの危険性だ。確かに日本会議の運動では宗教団体の動員が重きをなしているものの、この多種多様性からもわかるように、そのような劇画のように単純な図式は成立し難いことを指摘しておく。 <文/菅野完(Twitter ID:@noiehoie)>
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