グローバルな仕事術は新橋のサラリーマンに学べ【海外で伝わる力を養う5つのコツ】

本田哲也氏

本田哲也氏

 戦略PRの第一人者にして、ハーバー・ビジネス・オンラインでも連載記事を手がける本田哲也氏が今月、都内で開催されたイベント「Meet the Leadersセミナー」に登壇して、自身のコミュニケーション術について語った。  今回のセミナーは、国際舞台で戦える「和魂洋才」の人材輩出を目的に、講演活動やキャリア育成の活動を行うコミュニティ・プロジェクト「GAISHIKEI LEADERS」主催のイベント。この日のテーマは、“グローバルに「伝わる力」”。その内容は……外国人にもある本音と建前? 戦略的のらりくらり? セミナー後、50人近い来場者とともに筆者も、新橋の男性サラリーマンにマル秘処世術を伝授してもらった気分に酔いしれた。  以下、アイスブレイキングをかねた参加者同士の話題交換の後に行われたセミナーについて紹介する。

「伝えたから伝わっているはず」の誤解

「こんばんは。皆さん、隣の方と仲良くなれましたか? (この日、倒産が発表された)イエローキャブの話題もちらほら聞こえてきましたね」と柔和なトーンであいさつをした本田氏は、「皆さんは、コミュニケーションについて“伝える”と“伝わる”の違いを意識していますか?」とセミナーを質問から始めた。 「例えばメールの送受信を例にしてみましょう。相手にメールを送信するのは送る側からすれば“伝えた”ことになるかもしれませんが、相手にメールの内容が“伝わった”かどうかは次元の違う話です。外資系企業の日本支社の社長という私にとっても、”伝わる力”は切実なテーマ。その重要性をよく感じるのは、アメリカ本国の人間に状況報告をするときです。報告の仕方を間違えると『状況が危ないのでは』『コイツは仕事ができないのでは……』と勘違いされかねません」  本田氏が実践するのは、伝える内容を”ストーリーにすること”だ。 「ストーリーといっても感動的である必要はありません。大切なのは話に連続性を持たせること。連続性が生まれると話が順序立てて構成され、内容が聞き手の頭に入りやすくなります。経営状況が理解してもらえる、商品・サービスへの認知が得られるなど良い効果が期待できるでしょう」

心理の3層構造を知れば、建前・本音がわかる

 グローバルビジネスの話題になると、「自己主張が控えめ」など日本人はコミュニケーション力が不足していると言われがちだ。しかし本田氏は「実は日本人にも優れている点があります。それは、本音と建前を見破る力です」と述べた。 「本音と建前は、日本人以外のビジネスパーソンも腹のなかに抱えています。しかし裏表の考え方ではまだ不十分です。私は部下にいつも、『(海外のビジネスパーソンの本音・建前は)ティッシュのように3層構造だ』と教えています」  クライアントが「商品AをPRしたい」と表立って話す内容の裏には、「社内の○○部に先んじて結果を出したい」「商品Aは半年後に出す商品Bのプロトタイプ」など深みの異なる考えを2つほど抱えていることが多い。この3層構造のどれが一番の本音なのか捉えられれば、話も進めやすくなるというわけだ。「本音と建前の文化を持つ日本人なら、この3層構造の肝を見破る力を、きっとすぐ養えるでしょう」と本田氏はメッセージを送る。

戦略的のらりくらり

 日本のおじさんサラリーマンが多用するイメージがある“のらりくらり”。何を言ってもごまかして煙に巻くあの技。ネガティブなイメージもあるが、本田氏は「戦略的にのらりくらりすることが有効打になることが今まで幾度もありました」と過去を振り返る。 「戦略的のらりくらりは、例えば交渉やMTGで、色んなコミュニケーションを取ったほうが良いと判断したときに有効です。相手の問いに対してわざと的を射ないのらりくらりとした行動を取ると、そのうちに主旨がうやむやになって、より本質的な別の課題があぶり出せたり、状況の風向きを変えられたりします。実に日本的な戦法ですが、試す価値ありです」

WHOを言い換えると説得力アップ 

 それでも提案がどうにも空回りしてしまうことがある。そんなとき、有効な説得手法の一つに”WHO”の工夫がある。 「『“メディアが”こういう話をニュースにしていまして……』『“東京支社の従業員の8割が”希望しています』と相手に影響力のある“WHO”を提示すると説得力に厚みが増します」  ただし“WHAT(何を)”は事実にのっとることに注意。嘘の情報をでっちあげるのはNGだ。難攻不落の相手を説得するには、メディアだけでなく日常でもさまざまなデータを収集しておくことが大切になってくる。

ニュアンスが最優先

 最後はニュアンスの重要性について。 「私は英語でやり取りするにあたって『ニュアンス>メッセージ>流暢さ』と優先順位を付けています。優先順位の一番目に挙げたニュアンンスは言葉数が多くなりがちで、二番目に挙げた“メッセージ”は、シンプルな内容にブラッシュアップしやすいです」 「パンが欲しい」というメッセージなら、パンを手でつかめば言葉を介さずとも伝わる。だから言語を介するときは、より繊細なニュアンス――その内容のさじ加減を相手に分かりやすく伝えるのが大切なのだ。  極端な例だが、上司の昇進祝いの席に食べ物を用意するために「寿司5人前の電話注文」をインド人の部下に頼んだとする。すると30分後、「手巻き寿司セット5人前が届く」という結果になりかねない。「寿司屋の握り寿司」「急がない。3時間後に届けばOK」と+αの内容を相手に伝える必要がある。この+αたるニュアンスこそが、時に複雑なコミュニケーションを要するビジネスでは重要だ。  最後に本田氏は、常日頃から「ニュアンスを表現するフレーズを学んでおくと、さまざまな場面で重宝する」とアドバイスを送ってセミナーを締めくくった。”学んで鍛えないと、すぐ実践できないよ”と暗に語っているようにも聞こえた。”伝わる”ニュアンスでコミュニケートできる力が身に付けば、ビジネスがもっと円滑になるはずだ。  外国人と多くの駆け引きを重ねた戦略PRの第一人者が、15年のキャリアで培ったグローバルに伝わるコミュニケーション術。外国語を要するビジネスの現場で、状況を読んで「ここだ!」というタイミングでお試しあれ。 <取材・文/石田恒二> ほんだ・てつや/1970年生まれ。セガの海外事業部を経て、1999年フライシュマン・ヒラード日本法人に入社。2006年、グループ内起業でブルーカレント・ジャパンを設立し代表に就任。2009年に『新版 戦略PR』(アスキー新書)を上梓し、広告業界にPRブームを巻き起こす。国内外の大手メーカーなどを中心に、戦略PR自体はもちろん関連する講演などの実績も多数。近著に『最新 戦略PR 入門編』、『最新 戦略PR 実践編』(KADOKAWA/アスキー・メディアワークス)、『広告やメディアで人を動かそうとするのは、もうあきらめなさい。』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など
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