中国の大連を襲った「爆弾大気汚染」。春節の爆竹と黄砂のダブル襲撃で

大連市内

視界不良の大連市内

 すでに中国メディアが報じているように、中国の新年にあたる春節の日(2月19日)から、市民らが新年を祝う爆竹と花火を一斉に鳴らし始めたこともあり、北京ではPM2・5の濃度が1立法メートルあたり410マイクログラムにまで達するなど中国の大気汚染が激化の一途を辿っている。  筆者の拠点とする中国東北部に位置する大連も北京ほどは悪くないが日本の環境基準を超える日が連日のように続く状態で、筆者を始め中国在住の日本人は、大気の状況を日々Webサイトやスマートフォン向けアプリでチェックしながら戦々恐々と過ごしているところだ。  実は、大連では春節(旧正月)前後は思ったほど悪化せず一安心していたところだった。しかしそれが、2月22日午前7時に大気状況を確認するとPM10の数値が1立方メートル当たり561マイクログラムという尋常じゃないレベルに達していたのだ。大連で、500を超える数値を見た記憶がない。しかも、時間を追うことに数値は急増し、午前11時には880を計測。PM2.5は最大199で日本の環境基準の6倍近い異常事態だ。 ⇒【画像】はコチラ https://hbol.jp/?attachment_id=26585  大連を含む中国東北は、爆弾空気汚染の襲撃を受け、特にPM10が高くなっている。もっと酷かったのは同じ遼寧省の瀋陽や丹東、鞍山で、PM10はなんと1000を越え計測不能になった。  WHOの大気質指針暫定目標もアメリカの環境基準値でもPM10は1立法メートルあたり24時間平均で150マイクログラムとなっており、880マイクログラムは6倍近い悪環境と推測され、もはや人間が生きていける環境ではないのではないかと思われる状態に陥った。  大連の街へ出てみると、悪い数値を見ているせいか、街が灰色に包まれてどんよりしているように感じる。視界は1km以下と悪い。  しかし、そんな状況にもかかわらず街には普段通りの活気があり、マスクもせずに歩く人や子どもも見られる。 ⇒【画像】はコチラ https://hbol.jp/?attachment_id=26586  数年前から在瀋陽日本国総領事館在大連領事事務所が大気汚染についての注意を出すなど大連でも問題になっているが、マスクをしている人は10人中1、2人程度と少ない。しかも、その多くがバイクなどに乗るときの防寒用マスクだ。微粒子を防ぐものではない。そのため、大連でマスクをしていると奇異な目で見られ、すぐに日本人だと分かってしまうほどだ。  こんな日にマスクなしで外出させて走り回る子どもを見てよその子ながら心配になる。  もちろん、大連の人たちも大気汚染情報は知っており、テレビのニュースやスマホの情報から得ている。中国政府が発表するのは、優から深刻な汚染まで1~6級で示され、当然、この日は6級だったので、大連の中国人の知人からも、今日は外は控えたほうがいいなど声をかけられれた。気にしている人は気にしているのだ。  ただ、やはり概ね無防備なように思える。もちろん、日本人が一般的な中国人に比べて健康や環境に敏感過ぎる点は、否定できない。それもあるが、大連は北京よりは空気がいいという思い込みが大連の人々にはあるように感じる。その思い込みが無防備にも思える楽観的な構えとなっているのではないか。  大気汚染の原因として春節の花火や爆竹が挙げられているが、中国の報道によると年々規制により花火や爆竹をする場所を限定するなど対策が進められて減少傾向とされる。しかし、日本同様に一年の計は元旦にありという発想も根付いているため、やはり春節になるとここぞとばかりに各地で煙が上がるのだ。  また、花火や爆竹がクローズアップされやすいが他にも燃やしているものがある。冥幣と呼ばれる先祖供養のために燃やす紙だ。  冥幣を燃やすのは、清明節や鬼節など年に複数回あり、これらの燃え残りやあとは掃除せずに残されるため、風で舞い上がり、目に見えるレベルで大気を汚染する。大通りなどは翌朝には清掃されるが、清掃されない細い道の燃え残りなどは空へ拡散するのだ。  今回の爆弾空気汚染の原因は、紹介したような春節の花火類もあるかもしれない。しかし、深刻汚染地の北京から大連へ到着するまで通常1日足らずで到来するので、急激な上昇が春節から3日経過した22日であることを考えると、春節時の花火類が主原因とは考えづらい。では何が要因かというと、考えられるのは、今回はPM10が異常に高かったことからも黄砂の可能性が高い。事実、22日は、黄砂警報が出されていた。黄砂は、近くには落ちず、遠くへ落ちる性質があり、北京には落ちず、大連など東北一円に落ちたと思われる。当然、日本にも飛来していくだろう。  春節と黄砂が重なったのには、今年の春節が2月19日と遅かったこともある(昨年は1月31日)。春節が遅くなればなるほど、花火や爆竹による大気汚染は黄砂シーズンと重なり大気汚染を爆弾へと変えていく。  22日に大連を襲った爆弾空気汚染は、夜には収まり、外出できない状況ではなくなったが、そんな状況でもまだ爆竹を鳴らす人がいた……。伝統と急速な経済発展の間で、環境が悲鳴をあげているのが中国の「いま」なのだ。 <取材・文・撮影/我妻伊都>
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